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2024年9月(書評筆者:酒田清詩) 認知症の方の心情を理解するための3冊  

 『認知症の人の心を知り、「語り出し」を支える』の著者、三豊市立西香川病院院長大塚智丈先生は、認知症の人の心情・心理を十分に理解できていないため、ケアがうまくいっていないと述べている。
 認知症の人は初期の頃から、記憶の誤りや消失などの能力低下を自覚し、不安になっている。そのため些細な事に敏感になる。介護者の助言や励まし、繰り返しの指摘・注意は、自身を否定されたと感じる。「心理的防衛機制」が働き、自分の誤りを認めにくくなる。自分自身の自信が低下、自尊感情が傷つきやすい状態であるため、行動・心理症状の悪化を引き起こす。
 例えば職場で自分だけ仕事がうまくできず、上司から叱られ続けたらどうなるか、自信や心の余裕を失っている時、些細な失敗を指摘されたらどう思うか、その行為だけでなく、自分自身を否定された「バカにされた」などの被害感情が生じる可能性もあるのではないか。以前なら素直に謝ることができたのに、言い訳をしたり怒ったりしてしまう。しかし、大塚先生は、著書の中で「自分も同じ状況になれば同じような事を感じたり言ったりするだろう」と述べている。
 若年性アルツハイマー型認知症の当事者の丹野智文さんは、著書『認知症の私から見える社会』で、「忘れたの?」「さっきも言ったでしょう」「また」などの言葉がいちばん嫌なことばであること、更に「何もできなくなったという先入観を持たれている」と感じていることなど、認知症の方からのいろいろな声を紹介している。丹野さんは、是非当事者の声を聴いて欲しいとも述べている。
 前述の大塚先生も認知症の「負のレッテル」を、改善する説明は重要と述べ、認知症の方やご家族へ、「超高齢化社会になり、誰でもなり得るのです。情けない事ではありません。もの忘れなど悪い所にこだわり続けず、楽しみややりがい、生きがいを持って生きている人が多数います」と伝えている。負い目や罪悪感を持っている方には、「平均寿命が延びお世話になることを、恥ずかしい、情けない、申し訳ないと思わない。堂々お世話になりましょう」と伝えている。
 ただ認知症の方の生き方や性格はさまざま。そのため大塚先生は①認知症機能障害②心理的防衛機制③心情(羞恥心や自尊心、緊張感、警戒心、あきらめ、罪悪感など)の3つの視点から、心の状態を理解しようとしても難しい場合、当事者同士が参加するピアサポートの活用を提唱している。当事者同士が話し合う事で、勇気づけられて、自分なりの考え方や生き方を獲得し、「人生の再構築」も可能になると考えているのだ。
 お母さんがアツルハイマー病で介護をした恩蔵絢子さんの著書『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか:脳科学でわかる、ご本人の思いと接し方』は、脳科学者の視点で、認知症の方の生活動作を8項目に分類し、34の事例を解説している。タイトルにもなっている「なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか」については次のように述べている。
 アルツハイマー病認知症患者は、新しい出来事を記憶する際に問題が表れるが、昔の記憶は覚えている。日々の生活の中で、失敗や周囲の反応に不安が募り、安心できる存在を求め「実家」や「親」という単語を口にする。それは昔住んでいた場所だけではなく、「心が安心できる場所」を指している。何かしたいという気持ちを伝えている場合もあるので、体を動かし、人と集える場所を作る。体は場所や人を覚えれるので、そのうち「親しみ」を感じて気持ちも癒されていくはずと述べている。
 認知症の人の心情について書かれた本は、これ以外にもいろいろ出版されている。願わくは、沢山の人に読んで貰いたい。最後に今年1月に認知症基本法が施行された。「新しい認知症観」が一般の方々に理解され、認知症の方と住み慣れた地域で、関係を築ける共生社会の実現が望まれる。
 
               想定媒体 :地方新聞の福祉欄の本の紹介
 

(書評著者)酒田清詩さんのコメント

 認知症の人は、何も分からない人、感じない人ではありません。病気になった事での羞恥心や自信の低下などで声を挙げれなくなっているのです。けれども認知症の方のケアは難しい、「負のレッテル」を貼られています。そうではないのです。認知症の方の心情や声・考え方を理解して貰いたいと思い、三冊書評に挑戦しました。
 豊崎社長からの指摘もあり大幅に修正しました。一部の受講生の方から参考になったという声を伺い、書いて良かったと感謝しています。住み慣れた地域で仲間と共に繋がり、希望を持ち、暮らし続けるという「新しい認知症観」の考え方を多くの方に理解して頂き、広まり、実現できる社会になって欲しいです。


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