力強く、勇敢なセルフ・コンパッション(Fierce Self-Compassion)
セルフ・コンパッションとは、 自分への慈悲、思いやりを指します。コンパッションというのは、日本語にしにくい言葉です。Paul Gilbertの定義では、自分や誰かの苦しみに気づき、それを「何とかしてあげたい」と願う心、何とかしてあげようと行動しようとする動機づけ(強い気持ち)を意味します。
つまり、セルフ・コンパッションとは、「ああ、いま自分は苦しいんだなぁ」と気付き、大切な家族や親友が苦しんでいるときのような思いやり、優しさの気持ちを持って、「その苦しみを何とか軽くしてあげたい」と願い、行動しようとすることです。
Kristin Neffは、コンパッションには陰と陽という2つの面があると述べています。苦しみをやわらげてあげたい、心を穏やかにしてあげたいという気持ちが陰のコンパッションです。そして、苦しみからその人を守るために勇敢に立ちあがること、声をあげること、必要なものを与えようとすること、守ろうとする断固とした強さが陽のコンパッションです。
例えば、子どもを育てるとき、親にはこの2つが必要ですよね。「アイスクリームがほしい!」と子どもが言うとき、「そうだよね。アイス食べたいよね。疲れたよね。よくがんばったもんね」というのが陰のコンパッッションだとすると、陽のコンパッションはこうです。子どもがその日3個目のアイスをほしがったら、「大切なあなたにお腹を壊してほしくない。だから、我慢しようね」。あるいは、我が子がいじめられたとき、子グマを守る親グマのようにうぉーっと猛烈な怒りがわきあがり、我が子を断固として守ろうとする、このパワーが陽のコンパッションなのです。
自分に優しさ、思いやりを向けるとき、ソフトな陰のコンパッションだけではうまくいかないことがあります。ハードな陽のコンパッションも必要です。
「クソみたいな状況だ!! なんで自分はこんな目にあうんだ! このやろう!!」って、自分を守るために怒ってもいい。
「頭の中は不安でいっぱいだ! 当たり前だ! こんな環境で自分はめっちゃがんばっているんだ!!」って、大きな声で言ってもいい。
そのエネルギーがあってはじめて、「おつかれさま、がんばったね。つらかったね。当然だよ。うまくいかなくってむかつくよね。そうだよね。そのままのあなたでいいんだよ」と優しい言葉を自分にかけられることもあるのです。
怒ってもいい。不安でもいい。悩んでもいい。泣いてもいい。
つらいよって言ってもいい。
疲れたよっていってもいい。
あたりまえです。
そのままのあなたでじゅうぶんです。
何も無理やり変える必要はありません。
あなたは、今のあなたのままで、じゅうぶんです。
どんな感情を感じるあなたも、どこもおかしくありません。
何もおかしくありません。ある感情がわきあがるのは、あなたのせいではありません。あなたの脳が全力であなたを守ろうとする知恵です。自分を責める必要はありません。どんな感情も当たり前の、大切なものです。
あなたは、あなたのままで、じゅうぶんなのです。
【文献】
Paul Gilbert(著)Compassion Focused Therapy: Distinctive Features
Kristin Neff(著)Fierce Self-Compassion
Kristin Neff(著) "Self-Compassion: The Proven Power of Being Kind to yourself"
クリスティン・ネフ (著), クリストファー・ガーマー (著), 富田 拓郎 (監修, 翻訳) 『マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック』
Christopher Germer (著), Kristin Neff (著) "Teaching the Mindful Self-Compassion Program: A Guide for Professionals"