美術館、じゃがいも、ツメ
公園を歩くついでに美術館に寄る。
美術館が公園の中にあるから公園を歩くついでに寄れる。
公園を歩くついでに美術館にいつか寄ろうと思っていた。
公園を歩く時間的余裕が出てきたし余暇を楽しむ心理的余裕が出てきた。
公園を歩き始めて8か月ほど。
公園だけで時間いっぱいだったので美術館まではもう少し先だった。
公園を歩いてもまだ時間的余裕が残るように最近なってきて
いよいよかなぁと思って寄ってみた。
「一般の方は260円です」
財布に500円しかなかった、セーフ。
静かで涼しい館内、汗が引いていく。
僕のほかに入館者は散歩ついでのおじさんだけ、
退館するとこだった。入館者僕ひとり。
僕も散歩ついでのおじさんではある。
係員さん?学芸員さん?
30歳前後のネームホルダーを掛けた男の人が
僕と絶妙な距離感を保って付いて来られる。
(見張られてる…?)
そういや、受付の人が
「展示物には手を触れないようご注意ください」
と言っていた。
(やっぱ見張ってるのかな?)
別に僕が特に怪しいと疑われたから見張るわけじゃなくて
美術館業務としてついてくることになっているんだろう。
仕方ない。
僕が展示室を移動するごとに
スッ
スッ
音を立てずについてくる。
(質問してみようかな)
今やっている企画展は
掛け軸と漢詩。
南画というジャンルらしい。
付属の漢詩、
(七言絶句 漢文で習った気がする)
南画も漢詩も正式な愉しみ方が分からないので、
漢詩の韻を踏んでいる漢字を見て
(末尾踏んでる、踏んでる、2段目に踏むやつね)
と、作者が本来望んでいないであろう愉しみ方で観覧していく。
(質問してみようかな)
まさか質問されることはないと思って僕についてきてるだろうから、
たぶんびっくりされると思う。
やめとこう。
美術館を後にする。
美術館に寄ったことで浮足立って家路につく。
ヨシケイで夕食の準備をする。
じゃがいもを切る。
レシピの指示通り、薄く半月切りにしていく。
最後の1センチ程度の幅のとこ、
"ねこの手"を解除して、
じゃがいもが倒れないように指先を伸ばして押さえて切る。
「サクッ」
左中指のツメをそぎ落とす。
(ああー…)
"ねこの手"を解除したばっかりにこんなことに。
血は出てない。痛くない。
運良くツメの先端2ミリほどだけをそいだ。
(ああー…)
全然痛くないけどとっても残念な気持ち、
たかがツメ、されどツメ。
まな板上でそいだツメを探す。
じゃがいものかけらと見分け付かないからちょっと時間かかる。
10秒ほど探した。
あったあった。
硬さ、とがり方、感触、
じゃがいもでもないしまな板の削れたものでもない。
僕のツメだ。
シンクにポイ。
ツメをそいだ原因。
美術館で浮足立ったから?
違う。
ワインを飲みながらじゃがいもを切っていたから。
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