諸行無常
取り込んだ洗濯物を寝る前に片付けていたら、床に落ちたカメムシをプチって。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
カリカリの六角形の方じゃなくて、艶のあるチョコチップみたいな小さなやつを、左足の裏の小ゆびの付け根、ちょうど胼胝が頻発する部位で、踏みつけた。
プチっ
って。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
不幸中の幸いか、靴下は履いていた。冬用の厚手の靴下。僕は寝る前と寝てる最中も靴下を履くタイプだ。朝には布団の中で脱げてるから探すのに苦労するがね。
とにかくそれは不幸中の幸いだった。
ただ幸い中の不幸か、寝る前だった。つまり入浴済みであった。本日の全身のお清めは終わり、僕はまっさらな生まれたての亜麻色の髪の乙女のように綺麗な状態だったにも関わらず、
プチっ
って。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
僕は靴下を脱いで、靴下の踏みつけた部分を嗅いだ。
アウト。
バッターならトリプルプレーを食らっている。
ピッチャーならランニングホームランを食らっている。
それくらいアウト。
厚手の靴下だが、きっと地肌にもにおいは届いていること請け合いなので、僕は脱いだ靴下を持って左足の小ゆびの付け根が床につかないよう左だけかかと歩きで、階段を降りて洗濯機へ向かった。
洗濯機に靴下を放り込み、自身は浴室に入ってボディソープを左足裏に塗って、こすった。
学童期のトラウマに、真夏のシャワーの後に履いたパジャマのズボンの裾からカメムシが出てきたことや、朝急いで履いた靴の中でカメムシを潰したことが挙げられる。
いずれもボディソープや石鹸では上書き出来ないレベルの強力なにおいがあった。
…左足裏をこすりながら、そんなことが思い出された。
とりあえず、フレグランス性強めのボディソープで無理やりにおいを上書きし(あくまで上書き。決して消せてはいない)、靴下も洗濯し、2階に戻った。
チョコチップのカメムシさんはまだ生きていた。僕はティッシュ7枚ぐらい(入院中のだいたい80歳以上の高齢患者さん達はたいてい、トイレットペーパーを10センチだけ切って手も汚しながらお尻を拭き、手洗い後にはペーパータオルを1枚だけ取ってほぼ手全体ビチャビチャのまま手拭きを終える)、僕はティッシュ7枚ぐらい取って、チョコチップカメムシさんを優しくつかみ、外のゴミ箱に入れに行った。
諸行無常だ。