
おばあちゃんと響
◇◇ショートショート◇◇
高校の10キロのマラソン大会で、響《ひびき》は川沿いのコースを走りながら、調子が悪くなって、リタイヤしようと思っていました。
彼は忍耐力だけは誰にも負けない自信がありましたが、その日は走りきる体力が残っていませんでした。ゴールまであと数百メートルのあたりで、足が前に出なくなったのです。
響はその朝いつものように仏壇に手を合わせて、「おばあちゃん、今日は学校のマラソン大会があるんだよ、僕頑張ってくるからね」と小さい頃から可愛がってくれていたおばあちゃんに、一言話して出掛けました。
「おばあちゃんにお祈りしてきたけど、もうだめだ、完走は無理」そう呟きながらリタイヤを決心した時に、やさしい風が彼の頬を撫でるように通り過ぎて行きました。
その時、不思議に力が湧いたのです。
響の耳にこんな声が聞こえました。
「響、諦めないで、あと少し頑張ろうや、絶対完走出来るけん」
それは、懐かしいおばあちゃんの声でした。
それから響は気力を回復して、ゴールすることができたのです。
響の走りを見守っていた、幼馴染の美樹と小百合は驚いていました。
「ねえ、凄いね響君、突然覚醒したみたいに、力強い走りになって、あれってなに」
「ほんと、びっくり、時々あるよね響君、ダメダメからの回復って言うの・・・」
響の様子を見ていた誰もがそう思っていたはずです。ゴール出来たのは、奇跡としか言いようがありませんでした。
響の奇跡はこの時だけではありません。
中学生の時、自転車で通学していた響は、帰り道美樹と並んで話していて、側溝に気付かず川に転落したことがありました。
運悪く側溝に頭を打って、意識不明で丸一日ベッドに寝ていましたが、次の日には家族や美樹が見守る中、意識を取り戻したのです。
美樹はその時、同じ病室で家族の話を聞いていました。
「響は、これまでも怪我をしたり、病気をして大変な思いをすることがいろいろあったけど、いっつも不思議に回復するなー」とお父さん。
「どしたんか知らんけど、誰かが見守ってくれよるとしか思えんのよねー」とお母さん。
「誰かな、やっぱりおばあちゃんかな・・・」
「響はおばあちゃん子じゃったけんね、おばあちゃんといっつも一緒におったし」
「何するんもおばあちゃんが一番で、響はいっつもおばあちゃんを大事にしよったけんなー」
「おばあちゃんが亡くなる時に、最後まで手を離さんかったんんも響じゃったろー」
「響が言よったなー”おばあちゃん僕がずっと手を握ってあげるけん心配せんでもええよ、僕は何時までもおばあちゃんのこと忘れんし、おばあちゃんとずーっと一緒じゃけん”そう言よった、ほじゃけん響のことはおばあちゃんが守ってくれよんぞ」
お母さんもお父さんもそう信じていました。
おばあさんが亡くなったのは響が6歳の時です。
亡くなってから毎日、響は朝起きると仏壇の前にちょこんと座って、おばあちゃんに挨拶していました。
「おばあちゃん、おはよう、今日はご機嫌どうですか、僕はいつもでもおばあちゃんと一緒だからね」
そう言って鉦をチンと鳴らして手を合わせることを忘れませんでした。
おばあちゃんとの不思議なつながりが響の奇跡を生んでいます。

【毎日がバトル:山田家の女たち】
《お祈りしたら必ずええことがあるんよ》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「完走できて良かったねー、私もいっつもあんたが出掛ける時は、お経をあげてお願いしよる、一日三回はあげよるけん」
「お母さん、奇跡を信じる」
「うん、お祈りしたら必ずええことがあるんよ」
「信じとる言うことよね」
「あんたのこともお父さんが見守ってくれとらい」
私がこのショートショートを書いたのは、母の日常を見ていたからです。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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