私がきんぴらを作るなんて
私は食べることが大好きです。美味しいものには貪欲です。
これまでの人生の大半、私は美味しいものを「食べる人」でした。「作る人」ではなかったのです。
テレビ局でアナウンサーやディレクターを長く続けていたので、仕事柄、美味しいものに出会う機会が多く、美味しい味はたくさん知っているつもりです。
しかし私は作る人ではありませんでした。
わがままだと思われるでしょうが、独身で親と同居していたので必要に迫られなかったのです。
食は人を豊かにし、人の心を掴むことも、幸せを運ぶことも知っていました。でもこれまでの人生の大半を、食べることが専門の女子として過ごしてきたのです。
私が料理をするようになったのは、6年前からです。
母が高齢になり、火を使う料理を作らなくなったからです。
その日から私は「作る人」になりました。
それからです、私が、料理の奥深さを学ぶことになったのは。
料理を作る楽しさ、素晴らしさ、そのクリエイティブさに目覚めたのです。
TPOを考え、食材を選び、旬を組み合わせながらメニューを決めて、料理法や調味料を工夫する。
段取りやタイミングを考えて調理して、出来上がったものをどんな器に、どんな色どりで盛り付けるのかを考える。
本当に料理はクリエイティブなパフォーマンスだと思います。
だからこそ奥が深い、いい加減には出来ない家事なのです。
60歳を過ぎて料理を学ぶことになった私が、とても好きな料理があります。
それは常備できるとっておきの副菜「ごぼうと人参のきんぴら」です。
食卓にきんぴらが出されていると手作りの暖かさを感じます。
包丁を使ってごぼうのささがきを作っていると、家族の健康を預かっているんだと言う自覚が生まれるのです。
アクを何回か抜いて、水の色が少しずつきれいになって土の匂いが薄れていくのを感じながら、美味しいきんぴらを作るぞと暗示をかけます。
ごま油を引いた鍋に、きんぴらを入れた時の何とも言えない香ばしい香り、そこに人参を入れた時の色どりよさ、そして醤油、みりん、酒、砂糖を加えた時に立ち上る湯気の匂い、どれもたまらなく食欲を駆り立てます。
「日本食って、素晴らしい」そんな思いになる料理です。
私はごぼうと人参のきんぴらを作っている時、いつも思っています。
「私がきんぴらを作るなんて」「私が料理をするなんて」と。
そして家族の「美味しいねー」の言葉に、幸せを感じているのです。
私は食べる人から「作る人」になりました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《きんぴらの甘辛さが私は好きなんよ》
「あんたねー、お味がちょうどええんよ、きんぴらの甘辛さが私は好きなんよ、あんたは上手なわい」
「ホントに」
「ごぼうと人参の彩もええし、毎日食べても飽きんのよ、昔は私が料理を作りよったけど、火を使うんが怖くなったけんねー、あんた短い間に上手におなったわい」
母に作ってもらった分、今度は私が母に作る事になりました。味に厳しい母が気に入るまでには、まだまだ時間が必要です。
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