サンマの煙
新築してから家で魚を焼かなくなりました。焼いた時の匂いと煙が気になって焼かないことに決めたのです。もう20年以上も家で魚を焼いていません。
焼いた魚を購入することになると、食卓に焼き魚が登場する回数は減ってきます。
その日は母が喜ぶだろうと旬のサンマを買いました。食卓のサンマを見て母が口を開きます。
「今年はいつもの年よりサンマが獲れんらしいね、じゃけん値段も高いらしい・・・」
何だか母の表情が曇っています。食にうるさい人だからきっと何か不満があるのだろうと思っていたら、まさに的中でした。
「このサンマは痩せとるねー、脂の乗り具合が悪いわい、これは食べるとこが無いねー」
ありゃりゃ大失敗したなと思った私は、
「旬じゃけん、買ってきたんじゃけどねー」と言うと
「あんた、こんなんは買うたらいかん、ちゃんと身の太りを見て、ようなかったら買わんでええ、言うとってあげるよ、91年生きてきた経験で、私じゃったら、こんなんは買わんけどねー」
この後、私たちは冷たい戦争になりました。
サンマだから煙に巻いて適当に合わせておけば良かったのですが、大人げない私は、翌日まで母と口を聞きませんでした。
これも時間が経てば笑い話です。
私が幼い頃、サンマは庶民的な食べ物として秋の食卓に度々登場していました。
七輪に火を起こして、網をのせて、その上に2~3匹置いて焼くのです。
油の滴が炭に落ちて、焼ける時の焦げた香りがたまりませんでした。その香りでご飯が食べられるくらい、食欲をそそる香ばしさです。私は煙たいのを我慢しながら焼ける様子をじっと見ていました。
ひっくり返す時に網に皮が焦げ付いて身が剥がれたりしていましたが、その焼き目がまた食欲をそそるのです。
焼き上がったサンマは長方形の厚めの器にのせられますが、頭とお尻尾はお皿からはみ出ていました。そのくらい大きかったんだと思います。
焼いたサンマには大根おろしとスダチを付けるが定番です。
まだ湯気が出ているサンマに醤油を少し垂らしてから、スダチをぎゅっと絞ります。絞った後の手の香りが何とも言えず爽やかで、たまりませんでした。
炊き立てのご飯をよそってもらって、いよいよサンマをいただきます。
上手に焼けていると、皮と身が上手い具合に骨から外れます。ごはんと一緒に口に頬張ると、塩気のある身とゆずの酸味と香ばしい油がほどよく口の中で融合して、それはそれは美味しかったのを覚えています。
あれは七輪で焼いたサンマ独特の味わいだったんだと思います。いつも焼いてくれるのはおじいちゃんでした。本当にサンマを上手に焼いていました。
今、思い出してもあの焼き加減は最高でした。
こうしてサンマの話を書いていて、母が痩せたサンマに文句を言ったのがよくわかる気がします。
団扇であおぎながら、七輪で焼いた美味しいサンマを食べさせてくれたおじいちゃんが懐かしいです。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《サンマを買う時は肥えとるんがええよ》
リビングでコーヒータイムのばあばと。
「サンマの煙を見るだけで食べたい気分にならいねー、おじいさんは本当に焼くんが上手かったわい」
「ホント上手に焼きよったねー」
「あんた、サンマを買う時は前にも言うたけど生きがええ、肥えとるんを買わんといかんよ、脂が乗っとるんに、スダチをかけて食べたら最高に美味しいんよ」
母はまたまた、サンマを食べたいモードになっています。本当に食にうるさい人なので、次はサンマの太り具合を十分見極めて買おうと思います。
【ばあばの俳句】
彩りを求めて歩く里の秋
母は紅葉を求めて散策する自分の姿を詠みました。緑の中に少し色が変わり始めた葉を見つけると嬉しくなりますね。これからは山々がどんどん変わっていくのでお散歩がより楽しみな季節です。
今回の母のイラストは、新しい試みで樹々をぼかして自分流に描いています。またまた母の挑戦です。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗