感想記「光る君へ」第31回から第35回まで
旅行記の枕話としてこれまでNHK大河ドラマ『光る君へ』の感想を書いてきました。
今回は第31回から第35回までの感想をまとめています。それだけだとつまらないので当時の感想を振り返る「あとがき」を追記しました。かなり読み応えのある文章量となっていますのでお時間あるときに読んで頂けたなら幸いです。長文を読むのが苦手な方やドラマを観ていない人にも楽しんで頂きたいので『秋祭り日和と京都旅シリーズ』の蔵出し写真を載せています。
それでは感想記「光る君へ」をご覧ください。
目次
はじめに
平安貴族をテーマにした大河ドラマということで感想記の中に「宗教」「政治」の話が出てきます。現代の状況を例に挙げていていますがそれらはすべて私見であり、皆様に私の思想や理念を押しつける意図はまったくございません。もしかしたら不快な表現があるかもしれません。不適切な言葉が見つかり次第、随時修正をしますのでご容赦くださいませ。
あとここを討論の場にするつもりはありません。見解の相違をご主張されたい方はここと関係ないところで書いて頂けると助かります。相互不干渉でよろしくお願いします。
第31回「月の下で」
大河ドラマ"光る君へ"第31回「月の下で」観ました。
私も月をみて好きな人への思いを馳せたことがあります。当時小学六年生でした。翌年同じ中学へ進学したのですが、三年間同級生になることはなくその人は京都の私立学校へ、私は地元の高校へ進学しました。もう二度と会うことはない。淡い思い出になりかけていたときにバイト先で邂逅を果たします。相手の人はとても喜んでいましたが私は感情を表に出すのがとても苦手で、奥手だったこともあり連絡先を交換することなく静かに別れました。小学校のときもその時も私に特別優しくしてくれて、もし自分がもっと前に出ていたなら幸せになっていたのだろうかと今でも考えることがあります。しかしいくら願ったところで昔に帰ることはもうできません。その日以来誰かのために月を眺めることはなくなりました。
あかねこと和泉式部に枕草子を借りたまひろ。
中宮定子の影を描くべきだと提案したあの日以来ききょうと連絡が取れなくなったことを視聴者に示すシーンだと私には感じました。二人が袂を分かつのは歴史視点からすでにわかっていたこと。どのような別れ方を演出するのか。そこが一番気になるところでした。いくら心の通じ合った者同士でもききょうは中関白家で、まひろは父とともに左大臣家のお世話になっているライバルです。推しが真逆だと友情関係を続けるのってなかなか難しいのでしょうね。
物語は生きている。
私の場合は文章が生きている、となりますでしょうか。先日投稿した『熟成下書き』はもちろん完成版のつもりで公開したのですが改めて別記事に書き下ろしてみると、この文章は少し分かりにくいかなとか、この表現だと不快感を与えるかもしれないとか、時期的にふさわしくないなと結局多くの箇所を修正・加筆することになりました。
お気づきの方はさすがにいないと思いますが、私は記事を公開した後でもサイレント修正しています。といっても内容そのものを変えたりはしていません。大幅な訂正の場合は追記をしますのでそのへんはご安心ください。読み直してみると気になる部分は出てくるもので文章ってやっぱり生き物なんだなとしみじみ感じています。
天皇に献上したものを納得がいかないと修正するまひろ。あまりにも恐れ多いことを簡単にやってのけてしまう。これもまたまひろの「おかしい」ところなんですよね。しかしその向上心は私も見習いたいです。文章を愛し文章に愛されるようこれからも精進精進していきます。
第32回「誰がために書く」
大河ドラマ"光る君へ"第32回「誰がために書く」観ました。
そういえばローカルネタだった斎藤元彦兵庫県知事の話題がついに全国へ広がりましたね。大河ドラマの視聴者は一ヶ月ほど前に同じ光景をみました。彼の欲しがりようは私腹を肥やした平安時代の国司そのものです。時代錯誤の定番である昭和を軽く飛び越えて1,000年前に逆行しているのがなんともスケールが大きいのやら器が小さいのやら。
誰が言ったか令和のアンドリュー・フォーク。主人公の一人ヤン・ウェンリーは言いました。民主主義の代表者は民衆の税金を分配する代理人であって人の上に立つ支配者になったわけではないと。予言書のように見える銀英伝ですがフォーク准将に似た人物が過去の政治史に何人もいたのでしょうね。歴史は何度でも繰り返していきます。源氏物語が愛されているのは恋愛観も政治観も今とさほど変わりないのかもしれません。
"呪詛も祈祷も
人の心の有り様なのでございますよ"
"私が何もせずとも
人の心が勝手に震えるのでございます"
偉大な陰陽師・安倍晴明は真理の言葉を道長に遺してこの世を去りました。この世のスピリチュアルは人の心の有り様であり心のゆらめきであると私も思います。心霊現象や占い・予知、見えないモノすべてが。陰陽師といえばニコニコ動画で知った方が多いかと存じます。私は週刊少年ジャンプを読んでいたのでシャーマンキングを思い出します。2021年版アニメ全話観ました。恐山ル・ヴォワールが一番好きなエピソードです。大河で占事略决は出てきませんでした。のちの話に出てくるのでしょうかね。
藤原伊周が本格復帰。殺伐とした雰囲気の中「従二位・従二位・正二位」と言い合う三人の掛け合いがとってもおもしろかったです。出世欲に取り憑かれた男たちと寵愛を望む女たち。「宮中は子育てにふさわしくない」とまひろの父・藤原為時の言葉にすごく納得しました。それにしても伊周を演じている三浦翔平さん。イケメンだけでなくイケボなのもスゴイですよね。天は二物を与えました。光源氏役も立派にこなしそう。そりゃずっと第一線で活躍しますわ。
真夏の嵐山日帰り旅「日本画家が描くどうぶつえんと福田美術館」より引用
第33回「式部誕生」
大河ドラマ"光る君へ"第33回「式部誕生」観ました。
なるほど、女官のお仕事ってずっと謎だったので大変勉強になりました。そういえばいびきや寝言が煩くて眠れないシーンがありましたね。地位が高くなると"女官"から"女房"へ格上げとなり一人部屋が与えられます。里帰りしたいと主張するまひろに寝所を与えると提案をした道長。ド新人でまだなんの実績もあげていないのにすんなり特別待遇を受けていたなら間違いなく桐壺更衣レベルの嫌がらせをされていたことでしょう。妬み嫉みは千年前も今も変わりありません。さてパートナーの呼び方一つで大炎上する昨今。最近女房と呼ぶ人はいないけれど、うちの女房と呼んで怒る人が果たして存在するのか気になるところでございます。
朝廷にも武力が必要だと提言した藤原隆家。
刀伊の入寇が大河で描かれるフラグか、とウキウキしながら視聴していました。しかしどうやら次の話の繋ぎだったみたいです。治天の君・白河法皇も恐れた怖いお坊さんたち。平家物語の一節『加茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの』は有名ですよね。奈良時代には仏教勢力が政治に介入するようになり朝廷を脅かす存在となったため、平安京建都の際に興福寺や東大寺といった南都六宗の勢力を一掃しました。その一方で聖徳太子とゆかりのある頂法寺六角堂や広隆寺、町民に愛された町堂は朝廷と敵対する危険性がなかったためそのまま存立が許されることとなりました。京都と奈良の激しい対立は平家物語でも詳しく描かれています。
これまで紫式部ゆかりの地を巡る旅をしたことがありません。しかし偶然その場所へ行くことがあります。今回の『光る君へ紀行』で私はすごく驚きました。なんと嵐山がフィーチャーされているではありませんか。源氏物語原本から藤原定家の話へと飛んでいき、先日記述した「小倉百人一首歌碑」がメインで紹介されたのです。そしてテレビに映る注釈を見て思わず笑ってしまいました。
※現在この場所へは行けません。
スタンプラリー感覚で百ヶ所廻ってみたいなどと申したばかり。NHKからアンサーが返ってくるなんて。私の夢は実現不能だったのですね。偶然といえば一乗寺界隈のnote記事と一乗寺特集のTV番組を立て続けに観ました。もしかして影で電通が動いているのでは、なんて陰謀論を言ってみたり。実際は私が一乗寺エリアに注目しているからそう感じただけなのでしょう。奇跡というものをいつも懐疑的に見る私でございます。
第34回「目覚め」
大河ドラマ"光る君へ"第34回「目覚め」観ました。
子にさえ嫌われてしまった藤原伊周。その様子を見てさすがに可哀想だなと私は同情しました。兵庫県議会議員86人全員から辞表要求がなされて、アシックス尾山基氏が後援会を辞任し経済界からも見放され四面楚歌となった斎藤元彦兵庫県知事。彼に同情する県民は果たしてどれほどいるのでしょうか。彼の嫌われっぷりは伊周とだいぶ違うような気がします。
伊周は上昇志向と傲慢さと他責思考が行き過ぎて嫌われました。一方、斎藤兵庫県知事は極度のナルシシズムと公務員を絶対悪とする歪んだ正義感が混ざり合って独裁者気質となり、その人間性が百条委員会で周知されたことで兵庫県民だけでなく日本国民からも嫌われることとなりました。彼の言動と態度は道長を逆恨みする伊周より圧倒的に危うい感じがするんですよね。
官僚の「無謬性」をとことん煮詰めて大阪維新の公務員改革を曲解し、自己陶酔を押さえつける人間が周囲にいなかったことで彼の人間性は大きく変貌。独裁者同然の公益通報潰しとパワハラにより県職員二人が自殺する最悪の事態となりました。権力欲に取り憑かれただけなら話は単純です。斎藤知事の場合、色欲以外の七大欲求を最大限に発露させて本当に気味の悪い厄介事になっています。確かに財政再建や職員幹部天下りは解決しなければならない大きな行政課題です。だから三年前の兵庫県知事選挙で反井戸知事体制を掲げた斎藤元彦氏を多くの県民は支持したのでしょう。しかしその解決に導くための手法が完全にアウトでした。自殺者の隠蔽も最低な行為です。この問題は他の方もたくさん話されていることなのでここまでにしておきますね。次回伊周による道長暗殺計画が始動します。貴族らしからぬアクションシーンが見れそうなのでどういう顛末になるのかとても楽しみです。
オードリーが出演しているNHK総合『100カメ』が大河ドラマ特集だったのでこちらの感想も綴りたいと思います。
「曲水の宴」の舞台装置大変スゴかったですね。はんにゃ金田さんがユーチューブ動画で感想を仰られていて私もそう思いました。なぜロケじゃなかったんだろうって。京都市だけに限定しても城南宮、上賀茂神社、北野天満宮と曲水の宴ができる場所は三つもあります。なんなら毎年宴が催されている鹿児島の名勝仙巌園に昨春訪れました。今年30回目を迎えたそうですよ。全国選り取り見取りなのになぜスタジオ撮影だったのか謎でした。
番組では言及されませんでしたけれど、外ロケは「天候」が一番の懸念点だったのでしょうね。晴れの中で雨を降らすのは昔からよくある撮影手法なのでとても簡単です。逆に予期しない雨が降ると中止になり下手をすれば高価な衣装が傷んですべてが台無しになってしまいます。気まぐれな風も大敵です。杯を運ぶ水鳥さんがひっくり返っちゃいますからね。理想の気象条件を待つ余裕は映画にあっても大河ドラマにはありません。だから莫大な苦労とコストをかけてでもスタジオにこだわったのでしょうね。
「曲水の宴は後半一番の見どころ」いうスタッフの話を聞いて私は驚きました。ストーリー的にはそこまで重要な場面ではなかったし、優雅さや華やかさでいえば実際行なわれている曲水の宴のほうがずっと上です。誰にも気づかれなくても細かな演出に命をかける。そうした努力をいくつも積み重ねて奥行きを出す。これが大河ドラマの大きな魅力なんだなと舞台裏を見て感じました。
私は幾度も駄作ドラマを観てきました。スタッフがどれだけ優秀でも脚本や演出がダメだと全てがしょーもなくなります。扇の小鳥が飛び出す演出案が提示されていましたね。CGが流行った頃に散々見た古臭い演出だったので採用されなくて本当に良かったと思いました。万人にみてもらうための想像力の補助輪は時には必要ですけれども、隙間を全部埋めると面白みが一気に失せてしまうんですよね。『光る君へ』は余白がたくさんあるから感想を述べたり考察できたりするのです。わざわざCGで動かさなくても羽ばたく小鳥の動きをみんな想像してますよ。嵯峨嵐山文華館で見た日本画の鳥も優雅に空を飛んでいました。
脚本家の大石静さん100カメに登場されていましたね。スタッフと飲みニケーションしていたり演出担当に酸素スプレーを差し入れしたりと現場を大切にしている姿勢が映像を通して伝わってきました。だからいい作品が作れるのでしょうね。まだまだ言いたいところはありますけれどもこちらも他の方々にお任せしましょうかね。ついつい余白を埋めたくなる私です。
第35回「中宮の涙」
大河ドラマ"光る君へ"第35回「中宮の涙」観ました。
ドン・ドン・ドンと断続的な夏の音が窓の外で鳴り響く中、藤原道長による御岳詣が幕を開けました。伊勢神宮も金峰山も今であれば近鉄電車ですぐに行けちゃいます。平安時代に生きた道長・頼通父子が御岳詣で命がけだったことを現代人の我々は本質的に理解出来ません。
昨年、今熊野神社の記事を書くため後白河上皇の熊野詣を調べました。その際に修験道の実態を知りました。役行者こと役小角の名は京都検定や祇園祭などでよく見かけるかと存じます。バラエティ番組でお笑い芸人が滝行や火渡りをしてますよね。実はあれ修験道の修行なんです。彼らのリアクション芸を見てるとどれも安全に見えます。しかし実際は修行中に多くの命が失われました。御岳詣がどれほど危険だったかは一条天皇やまひろの反応である程度推察することが出来ます。もし道長があそこで命を落としていたら歴史は大きく変わっていたでしょう。ただ伊周の運命は道長とは関わりのない形で間もなく終わりを迎えます。
御岳詣のアクションシーンを期待していた先週。
まさかまさかのまひろ弟による愛の垣根超え。こんな展開が待っていたなんてまったく想像していませんでしたよ。野宮神社に訪れてようやく斎院と斎宮の違いを理解した私ですが、もしかしたら視聴者の中には斎院と聞いて野宮神社をイメージした方がいらっしゃったかもしれません。野宮神社は伊勢神宮に仕える斎宮の潔斎所で、藤原惟規ふじわらののぶのりが乗り越えたのは斎院潔斎所の塀になります。
あっそうそう。昨年の京都検定二級問題では野宮神社と斎院が共に出題されていました。「路頭の儀」をご覧になられた方なら葵祭のヒロイン・斎王代をお見かけしたことでしょう。ずっと気になっていたんです。ドラマで斎院様は登場されるのかなって。残念ながら今回御本人登場とはなりませんでした。しかしセリフの中にお名前がありましたね。惟規の和歌を褒め称えた選子のぶこ内親王は円融天皇から後一条天皇までの五代五十七年に渡り斎院を務められた大斎院様になります。豊かな教養、お人柄が大変素晴らしく清少納言と紫式部が日記で大絶賛しています。ちなみに斎院の潔斎所に忍び込んで捕まって歌を詠んで許されて大斎院に褒められたエピソードは今昔物語集に収録されています。
それにしても緑色の服を身に纏い逃げ惑う様を見て仮面ライダー龍玄を思い出したのはきっと私だけではないはず。そういや主人公のお姉さんは和泉式部を演じている泉里香さんでしたね。『仮面ライダー鎧武』最終回からちょうど10年が経過しました。そう思うとなんだか感慨深いです。
中宮の涙ということでわたくし思わず貰い泣きをしました。藤原隆家もずっと秘めていた心の内側を兄に伝えて泣いていましたね。身近な人へ想いを口にするってすごく大変で私も似た経験を何度かしたことがあります。恥ずかしいやら情けないやら苦しいやら、いろんな感情が混ざり合って爆発して自分を抑えきれなくて涙がとめどなく溢れてしまうのです。
愛と権力の渦巻く内裏にて次週はどんな騒動が発生するのでしょうか。
結び
第31回から第35回まではホップ・ステップという感じでしたね。投稿時の最新回、第41回「揺らぎ」は最終盤を迎えています。ジャンプはキレイな弧を描くのか。そして着地は果たして成功するのか。
そういえば先週クランクアップのニュースが流れていましたね。一年半に渡る撮影が無事終了を迎えたそうです。でも撮影がその期間ってことは準備を含めたら相当長く取り組んでいたってことですよね。いい作品だったから良かったものの、脚本や演出がダメだったらスタッフの苦労は報われません。さて次回の感想記のまとめは早めの投稿を予定しています。最終回を過ぎたら熱が冷めちゃいますからね。
それではまた。
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