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肉まん、あんまん。

もう昔々、高校生1年の頃のワタシ。
もう冬に差し掛かろうとかという秋の夜。春には桜並木で覆い尽くされる坂道をウッキウキで自転車で下っていた。 

その頃の私は美術部に所属し、くる日もくる日も何なら土日も県内の数々の公募展に向けて、油絵具だの粘土(彫刻)だのにまみれる日々を過ごしていた。

みんな田舎の高校生でお金は無かったが仲は良かった。顧問も無精髭で冴えない風体ながらも熱心な教師で作家としても活動していた。
顧問はこの後、私の人生においてのキーパーソンになるのだが、またそれは別のお話。

話しは戻るがなんでそんなご機嫌で自転車に乗っていたのかと言うと「あるミッション」を遂行する為だ。

この日は文化祭の前日。我が美術部も今までの作品を所狭しと美術室に展示する。
高校生時代、門限が夜7時であった私はこの日だけは門限が夜9時までとなっていた。もうこの時点でウキウキ度は60%up(当社比)である。

部員みんなが力を合わせて通路を作り、ベニヤと角材で作った自作の板キャンバス(重い)が落ちないようにしっかりと固定し、来客が見易いように配置を考え水平垂直を確認する。
力もいれば神経も使う作業である。非日常的な空気、むせ返る少し古くなったペインティングオイルの臭い。

いつの間にか見知らぬおっさんが2人居た。聞くと顧問の制作仲間。ヘルプに来てくれたという。
7時を大きくまわった頃に顧問が「おーい。テツ(私)、みんなに希望を聞いて、そこのコンビニで肉まんを買ってきてくれ。」と言った。

先輩が言うに毎年、文化祭の前日は顧問の奢りで肉まんを買うことが恒例だという。
みんなが尋常じゃないほど色めき立つ。なぜかというと、まず前記の通り、みんな基本お金がない。そしてその頃のこの高校(特に女子)だけなのかも知れないが「コンビニ」で「ピザまん」を買い、食すというのはちょっとイケてる感のある行為だったからだ。

今も昔も若人は「流行」「イケてる(死語)」に弱いものだ。今で言うと、タピオカ的な位置だろうか。

一応言っとく。「ピザまん」と言っても昨今の「チーズ入り」だの「もちもち生地」という特別なもんではない。極々最低スペックのピザまんである。それでこれだけ喜ぶのだから今のピザまんどころか小洒落たコンビニまんを見たら、えらい事になるだろう。

案の定、集計を取るとダントツでピザまん11個(女子)、肉まん4個(男子)、そしてあんまんは3個。顧問とヘルプのおっさん二人の分だった。

私はその辺の藁半紙に走り書きで

「ピザまん11 肉まん4  あんまん3(おっさん)」

と忘れないように書き込んだ。

顧問は私にお金を渡しながら「ピザまんって何や。あんまんはワシらだけか。美味しいのに。」と不服そうにあんまんについて語り出したので、放って部室を出て行った。

有難い(?)あんまん講義より実物のピザまんである。そしてみんなの期待を背負い、ミッションを遂行すべく自転車を走らせた。ピザまん効果によりこの時点で総ウキウキ度90%up(当社比)である。

学校から自転車で20分の私の住む街にはまだコンビニも無く、そもそも外が暗い時間にコンビニに行くなんてあり得ない事である。風を切り坂道を下った先にある超マイナーなコンビニ。

「ギコッ」と重いガラス扉を押し開けると「ッしゃいまっセーッ!!」と大学生風の男子二人(天パとメガネ)が元気よく出迎えてくれた。
2つ並んだ肉まんケースの前に立つと、メモを持った私が「あの、たくさん欲しいんですけど大丈夫ですか?」と聞くと「ハイッ!大丈夫です!いっぱいありますからッ!」と無駄に笑顔で元気よく答えた。
今でも思うがこの二人はコンビニより居酒屋のバイトの方が絶対に向いている。

しかし、私が藁半紙のメモを読み上げるとみるみる二人から笑顔が消え去り能面の様になった。一拍置いて天パがメガネの方を見たかと思うといきなり胸ぐらを掴んで

「それ見てみィイ!お前、あんまんばっかり入れやがって!!今の若い子は、あんまんなんか食わんのじゃああぁあああ!!」

と獅子の如く吠えた。

私は人生初の胸ぐらを掴む人(天パ)と掴まれる人(メガネ)を目の当たりにビビりつつ、メモに書いた「あんまん 3(おっさん)」の文字を見て「その通りや。」と心の中で突っ込んだ。

どうやらピザまん11個はない模様。ないものは仕方ない。「あるのでいいです。なるべく希望に寄せた数をお願いします。なるべくピザまん、肉まん優先で。」というと、天パは「イっすかぁ。すいませんねぇ。」と再び笑顔に戻りメガネの胸ぐらを離した。

二人はせっせと5分ほどかけて「にくまん、あんまん、ピザまん」を18人分詰め込んだ。

店を出てレシートを確認したら「ピザまん4 肉まん5あんまん9」の驚くべきメンバーだった。

失敗したミッションを引っ提げ、部室に帰り男子に肉まん、おっさんズにあんまんを配り「ピザまん、希望数なかった。」というと女子たちは一斉にジャンケンをしだした。

それよりも気になったのは、コンビニの肉まんケースの中身だ。優に10個は残っていた。私は「ピザまん、肉まん優先で。」と言ったので、あの中は全部あんまんという事になる。

私は自分用にあんまんを一つ取った。実は小豆が苦手だ。女子高生の必死過ぎるジャンケンを尻目におっさんズは「あんまん、美味しいのに。」と満足そうに食べていた。


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