淡い思い出という酒。頭と心が反射して、時間だけが前に進み続けて。
会社の同期と飲み歩いて、
いつもの行きつけのスナックに1人辿り着いた。
「こっちにいるから、みんなで楽しんでてなー。」
LINEを送信する。
スナックなんて学生の頃は、
自分が行くことを1%も想定していなかったけど、
気付いたら定期的に来るようになってしまった。
次々と自分の中から、湧き出てくる言葉を、
気持ちを、考えを聞いてほしい。
そんな時に来てしまう。
僕にとってここは、否定もされず、うんうんと優しく、
しかし間違いは間違いだと教えてくれる場所だ。
未練なのか、何なのか分からない。
別れて1ヶ月が経とうとしているのに、
ずっと心が切り替えられずに、
好きな気持ちが沈澱したまま、
朧げに、でも確実に存在している。
1件目に立ち寄ったバーでは、友人が店主に、
失恋のお酒ってありますか?と聞いたらしく、
「淡い思い出」
というカクテルが出てきた。
ドライフラワー、366日のカラオケを歌いながら、
少しずつそれを胃に流し込んでいた。
「多分、私じゃなくていいね。」
「余裕のない二人だったし。」
「それでもいいと思える恋だった。」
「戻れないと知ってても、繋がっていたくて。」
自分たちのこれまでの場面が思い浮かんでしまって、
次々と思い出が浮かんでは切り替わっていく。
そのカクテルは全て飲みきらずに、
2口分ほど残して店を出た。
それらの思い出はいまだに温度が変わっていない。
時間が経てば冷静になれると思っていたのに、
視野が狭くなっているだけだと思っていたのに、
感情はずっと同じ駅で停車したままだ。
スナックのままは、仲直りしても、
また同じ揉め事を繰り返すだけよ。と言っていた。
お別れして正解だったと。
しかし30歳くらいのもう1人の女性、
ここではあや姉としよう、
あや姉は、私だったら好きな気持ちが残っていたら、
付き合い続けちゃうな。と言ってた。
僕もそうしたかった。
ずっと一緒にいたいと思っていた。
でも辛さが限界だった。
日に日に彼女の期待が大きくなり、
それに応えられずがっかりさせてしまって、
それが今後も大きくなっていくと考えたら、
人生がすごく窮屈に感じて、限界だった。
好きだけど、辛かった。
でも辛いけど、心から好きだった。
今もそう。
お別れして辛さから解放されたのに、
好きな感情があの日のままで。別れた感覚がない。
恋が相手の長所を好きになる事だとしたら、
愛は相手の短所を含めて全て受け入れたいと思う事。
そう聞いたことがある。
でもだとしたら、愛では無かったんだろうか。
頭では別れが正解だったと思ってるのに、
心はまだ好きで一緒にいたいと思っていて。
頭と心がずっと反射して、
何が正解で、何が間違いだったか分からないままにいる。
好きでも一緒にいられないことがある。
大切でも離れなければならない人がいる。
そう正当化しても、心はそれに抗い続けて。
そんな中で、2日前にふと、
別れて以降、初めて彼女にLINEを送ってしまった。
「手紙を渡したくて、もう会えないかな。」
でもその30分後に、僕はそれを送信取消した。
やっぱりダメだ。また繰り返しになってしまうと。
いつかふと、どちらかに振り切れる瞬間が来るのだろうか。
どこに正解を探しても、ずっと見つからないままで、
自分の頭と心さえも喧嘩し続けていて。
彼女はもう前に進んでいるんだろうか。
白黒の世界で、時間だけが前に進み続けている。
yama.
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