マガジンのカバー画像

ことばと生き方──ことばに対するこだわり

95
若い頃から「ことば」というものに興味があり、2001年から2018年まで“ことばのWeb”を主宰していた流れで書いた文章を集めています。
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

気になる放送のことば──「のようなもの」

放送局に勤務していながらこんなことを書くのも何ですが、放送に使われる言葉でどうもしっくり来ないものがあります。 傷害事件などのニュースで使われる「刃物のようなもので」というのがそのひとつです。 のようなものそれは、被害者が凶器を見ていなくて、事件の目撃者もおらず、犯人も凶器を持ったまま逃げてしまったなどの理由で、当然記者もそれが刃物かどうか確認できないという場合に使われます。 その心構えは解らないでもありません。実際に見てもいないのに「刃物で切りつけられ」などと断定した

日本語の中のフランス

最近よく思うのは、外来語が英語由来のものばかりになってきたなということです。 昔は医学用語ならドイツ語、哲学ならドイツ語かフランス語、ファッションや芸術ならフランス語、社会主義関連ならロシア語などと、結構いろんな国の言葉を分けて使っていた印象があります。 もっと遡ると、江戸時代に入ってきた言葉はオランダ語かポルトガル語に限られていたわけで、それから歴史を追うごとに、いろんな国から、いろんな国が得意とするいろんな分野の言葉が入ってきたのです。 そして、そういう風に棲み分け

新コロ宣言

新型コロナウィルスの猛威がいつごろ収まるのか見通しが立たず、みんな不安な日々を過ごしている。旅行や会食がままならなくなり、娯楽が細り窮屈になった。 それを、僕もそうだが、多くの人は「コロナで」「コロナのせいで」などと言っている。 でも、考えてみればコロナって、元々はそんな印象の悪い言葉じゃなかったはずだ。 僕が人生で最初に出会ったコロナは多分自動車の名前だった──トヨタのコロナ・マークⅡ。 自分が車を運転できるようになる遥か前、まだ小さかったときに、大人たちが名車だと

已己巳己

已己巳己(いこみき)とは、已・己・巳の3つの漢字が似ていることから、互いに似ているものを例えて言う表現です。 しかし、形が似ていると言っても読みも意味も全然違います。 已は已然形のイで「すでに」または「やむ」の意。己は訓読みでは「おのれ」、音読みだと自己のコ、または克己のキで、意味は「自分」。巳は巳年(みどし)の「み」、音読みではシで、十二支の「ヘビ」です。 ところが人名の場合。これら全てがミの読みで使われています。同じマサミでも雅己さんと雅巳さんと雅已さんがいるので要