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渡来した臙脂(えんじ)色
実は戦前(太平洋戦争)に使われていた日本画の絵具は様々な理由から失われてしまった色もあるそうだ。
だから平安時代どころか戦前と同じ色を求めるのは、想像以上に難しい。
まして日本画の岩絵具は「岩」を粉にして作っているので、個々の「岩」の色によって当然変わる。あの鉱山はこの色だったけど、とか、この坑道の岩石がいい、などあるのかもしれない。
日本画の画材屋さんに行くとたまに「数十年前の岩絵具だから、この色はもうこれだけだよ」と言われたりする。
いい色に出会えるかどうかはタイミングと出会い次第だ。
例えば臙脂(えんじ)。田中親美サンは臙脂色を女房の表着に使っているようにみえた。今の臙脂色はコチニールという中南米原産のサボテンなどに寄生するエンジムシ(コチニールカイガラムシ)から得られた色素で、昔から様々な食料品にも使用されている。
しかし、平安時代に中南米原産の臙脂色素を使っていたわけではない。
インドや東南アジアにいるラックカイガラムシが小枝に寄生して分泌した樹脂質の分泌物を原料に、中国で円形の綿に色素を染み込ませて、乾燥させたものを日本に船で運び(日宋貿易?)、描く時にはお湯で湿らせて臙脂色を抽出するらしい。「色の博物誌」図録によると。
遠くインド、中国からの渡来品なのでとても高価だったろう。
そして、実は今もめちゃめちゃ高価なのだ!
というのも、近代化に伴い臙脂綿を作る伝統技術をもった方が中国で激減したからだそうだ(もういないという話も)。親美サンが模本制作をした大正、昭和初期はまだ手に入ったかも?しれないが、今は画材屋さんでお目にかかることもまれで、見たとしても手が出せない。
代用のコチニールは安価なので、素人はとても助かっている。
でも臙脂綿、憧れるー!
遠くインド、中国、と渡ってくるなんてロマンチックではないですか!
ところでラックカイガラムシはインドや東南アジアで生息するのに、なんで臙脂綿にするのは中国の技術なんだろう…。謎は尽きない。
色についてもっと知りたい時は詳しくは目黒区美術館の「色の博物誌」図録がおすすめです。