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【詩】あんてん・めーてん

幕あい
場面が切り替わる
ぼくは暗がりで 目を慣らす
板付きでじっと待つ
息をひそめた静けさ
ひんやりとした空気が
高ぶるぼくを
落ちつかせてくれる

舞台の上で踊るとき
精霊が宿ることを知っている
大むかしの人とつながっている
板のにおい
かびのにおい
稽古でながした
あせと血のにおい

ぼくは目を閉じて祈る
まぶたの暗さの方を信頼する
夕暮れに染まる海を想う
舞台袖にはけた海のセットの水面に
とびうおが跳ねあがる

場面が変われば
もう役目をおえた人は
ものがたりに登場しない
こつぜんと消え去る人
近くにいても会えなくなる人
はるか遠くに行ってしまう人
舞台とはそういうもの
大きな場面転換の前にはかならず
張りつめた静けさがある

スポットライトを見上げれば
夜空に星がひかりを放ち
非常口の方に目を細めれば
遠くの街に 霧雨が降る
雨垂れが石を穿つように
ぼくのたましいは
観る人のこころを震わせる
焼き切れても 傷ついても
ぼくは 迷いのなかをすすむ

ほんものの月 ほんものの太陽が
演者のいのちを透かしている
舞台をまいにち照らしている
ひとつの生を
あらん限り使い切って
いつか
舞台とひとつになれたらいい
共時性のみに身をゆだねて
このまま溶けてしまえばいい

期待を押し込めた観客同士が
こすれる音がする
深い森のにおいがする
ぼくの鼻先に
のっそりと霊獣が通りすぎる
幕が開いたら
発光する
獣とぼくが 踊り出す





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