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総てを覆うことの

三連休三日目。

空気の移り変わりや風向きの読めない不安感に世間が覆われる中、

私はひとり、穏やかな気持ちで家に滞在した。

休日のルーティンである朝の散歩の際には、
朝だけカフェに行こうかなんて考えていたが、
足の出てしまうサイズの布団に包まると、なぜだか気持ちは萎んでいた。

朝食を食べて、昨日に購入した便箋に私事を綴り、
少しうたた寝をしたのちに昨晩の残りを食べる。
器の上にかぶせたラップは電子レンジの熱に充てられて、
力なく、硬くなっていた。


夢の中で私は、宿題に追われていた。

社会人なのだから、学校から指定される課題なんぞないものの、
それでも私には、やらなければならないことが存在した。
そして、それをしなかった焦燥感が私を支配した。
登場人物である会社の人や過去、出会った人達は皆一様に何かを提出していて、私もまたその列に並ばされる。
「出来て当然だよね」
「やってきているのは当たり前だよね」
そんな視線が行動を抑制し、心が枯れていく。
そうして私の名前が呼ばれる。

何時の間にか私は、貧血で倒れたらしく、自室に眠らされていた。
同伴してくれたのは、小学校来の旧友だった。
私はその後の話を聞いたのだが、何とも奇妙だった。

学校の癖して、何処かしらの会社の会長が登壇したらしい。
そこではなぜか、身内の中に犯罪者がいるという、映像を見せたらしい。
それで、それに関して考えるのは人それぞれなのだと。
だから、人の考えを押し付けてはいけないといったらしい。

それに関しては、私が怖い話の朗読を聞きながら寝ていたからだと思うが。

友人は、抜け出せてよかったといった。
あんな映像を見せてまで言うことではないと。

私はそれに同意した。そもそも、押し付けてはいけないと宣う時点で押しつけがましいのだとも思った。

そうした話をしていると、


というところで目が覚めた。
目覚ましをセットした時間より一時間後だった。

友人に会えた喜びもさながら、それまでの出来事が胸に居座り続けた。


私は傍らに置いておいた小説を読む。
本来ならば、一時間前に起きて読破しようと思っていたものだ。

頁をめくり、時折声に出しながら読み進めていく。

日没が迫り、陽光の色づきを感じられないまま、ただ静かに部屋が落ちていく。

部屋全体の電気をつけるのも些か明るすぎるかと考え、
私はふとスマートフォンの懐中電灯モードを点けた。

部屋の四隅には届かない光。
本文だけを煌々と照らし、私の影を色濃く滲ませる色は、
大雑把でがさつで迂闊で、心地よかった。


総てを覆いつくすこと、満たすことがよしとされるかもしれない。
多くの人が涙した作品も、過去を清算することも、今や思い出が痛みを消し去ることも素晴らしいと賞賛されることなのかもしれない。

けれど、その大多数の恐ろしさを私は知ってしまっている。


私は何処か隅を探しては一人、安寧に浸りたがる。

夜は静かに、雲に隠されていった。

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