『黄金蝶を追って』相川英輔(竹書房文庫)
☆3.8
SF・ファンタジーに属する作品群六編が収録されています。
どの作品もどこかノスタルジーを感じさせます。
掴みたいのに掴めない何かを、この中に探してしまう。
そんな気持ちになりました。
読み終わって考えると、その何かとは「希望」なのかもしれないなと思うのです。
「星は沈まない」
長くコンビニ業界の会社に勤めそれなりに出世するも、ある事件から不採算店の店長に降格され十年。
この店はAIを導入することでほぼすべての業務を代行できるシステムのモデル店舗になると決定された。
AIシステムの「オナジ」と働き、その能力に驚かされつつ気味悪くも思うのだが…
予想以上のコミュニケーション能力を持つオナジに、恐怖や危機を感じるのもわかるなぁと思いつつ、他の誰よりも結果側にいるオナジに心を寄せるのはきっと当たり前のこと。
オナジとのやりとりの中に、確かに想いを見た気がするのは私も希望を持ちたいからなのかもしれません。
「ハミングバード」
一月ほど前から私は幽霊と共に住んでいる。
この部屋の前の持ち主が、突然半透明の姿で日常生活を送りはじめたのだ。
触れられないし、話もできない。
半年ほど前、手続きの時にはお元気だったのに。
それとも自分は精神に異常をきたしているのか?
これは妄想を見ているだけなのか…
ちょっとしたおかしみが感じられる一編。
半透明な幽霊姿なのに、機械のように決まりきった行動を繰り返すばかりなのが、幽霊らしくなくてちょっと変。
部屋の記憶を見てるんじゃないかと思うくらい。
このちぐはぐな印象がおかしみの元かな。
後輩の樋川の明るさもカラッとしてて好ましかった。
「日曜日の翌日はいつも」
水泳の五輪候補選手ではあるが今一歩頂点の選手たちには届かない、そんな位置にいる宏史だったが、ここ最近タイムを縮めている。
それには理由がある。
彼には日曜日の翌日に、自分以外が存在しない空白の一日が来るようになったのだ。
その空白の日を使い、練習を重ねていく…
まずはこのタイトルが良い。
単純に一日増えたよやっほー!ではなく、次第に増える空白の日への恐怖や、泳ぐ先に見据えた目標の想いの要である谷川との大事な時間など、その繊細さや葛藤をとても愛おしく思います。
ラストの解釈も人によって違いそう。
読んだ人とどのように思ったのか話し合ってみたい。
「黄金蝶を追って」
小さい頃から絵を描くのが好きで得意だった尾中は、特別授業で壁画を描いたとき、今にも壁から飛び立ちそうな黄金の蝶に目を奪われた。
この蝶を描いた達也を訪ねてスケッチを一緒にするうちに大事な友人となっていく。
そして達也は、自分の描く絵には秘密があると打ち明ける…
達也が一体どんな人生をおくってきたのか。
中学生でいる間に育んだ二人の友情は何より大事な思い出であり、大事であるからこそ、今頼ることで壊すようなことには決してすまいぞ、と思ったのではないでしょうか。
スケッチブックから飛び出した吹き込まれた生命は、今も何処かでひらひら舞っているのが見えるようです。
「シュン=カン」
シュン=カンは開拓惑星ニョゴ61にて無謀な資源採掘をさせられている。
不正を行うタイラーを摘発しようとして失敗し、部下のナリツネと共に流刑に処されたのだ。
補給船が二ヶ月止まっており、囚人は反乱を企てている。
しかし看守のマーダーマシン〈オナジ〉を倒せるとも思えない…
ここで〈オナジ〉が出てくるとは!
想いは繋がる。
決してその形は見えなくとも。
そしてそれは魂も同じこと。
「来世で会おう」はきっと心から出た言葉。
オナジの想いを受け取ったのですから。
それでも、その痛みもまた本物に間違いないのでしょう。
「引力」
ノストラダムスの予言の日まで一週間をきった。
そんな朝、餌をあげていたが懐かれなかった野良猫が庭で死んでいた。
葉子は猫を埋葬するため、車を持っている宇佐に連絡を取り、山へ連れて行ってもらう。
年の離れた宇佐は就活が始まり「予言が当たれば就活しなくて済むのに」と愚痴をこぼす…
猫が死に、宇佐は就活が始まり、弟は結婚を考えマンションを買う。
周りの人に大きな変化が訪れた葉子は、自らの変わりのなさにうんざりしていたのかも。
だから彼女は祈ったかもしれないなんて思いつつ。
それは何気ないほどに軽く、ある意味とても純粋な祈り。
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