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【エッセイ】我が家のお夜食

わたしの実家では「鮨屋」で外食をしたことがほとんどない。
父は戦後の貧しい家庭で育ち、外食にお金をかけることをあまり好まなかったし
母も歳が離れた兄もお酒が弱く、私は子どもの頃は海鮮類がにがてだったというのもあったから。

だが、ときおり父が仕事帰りに勤務先の近くにある「はがま寿し」でおみやを買ってきてくれて、母から「子どもだから、ちょっとだけね」とおこぼれをもらい、深夜に家族でお寿司をほおばる時間がお気に入りだった。
その後、父が定年退職したこともあって「はがま寿し」のことも長らく忘れてしまっていた。

そして先日、長めの夏休みで地元に帰省し父の元職場あたりを歩いていると「はがま寿し 二代目」という看板を見つけた。
すぐに実家に電話をかけると「今日の夕飯は決まりだね。3つ買ってきて」と、母がはずんだ声で言った。

十数年ぶりにおみやの箱を開けると、あの頃のままの姿できれいにお寿司が並んでいる。
私は今日、はじめてひとりで上を食べる。もう大人になったのだから。
小ぶりでシャリが固めで黄身と白身が分かれてる卵に惚れ惚れしていたら「あのころとおんなじ。お値段も味も」と母が微笑む。
当時はまぐろといくらと巻物しか食べられなかったけと、今は両親と一緒に上ひと箱をゆっくり味わっている。

次は兄も誘ってはがま寿しに足を運ぼう。
みんなで特上を頼んで、母と兄にはすこしだけ冷酒を注いで、父からは初代のはがま寿しの話を聴く夜を過ごしてみたい。

▲このエッセイは、2024年7月に完成させるつもりだった食に関するZINEの制作が諸事情により難しくなったため(現時点では)、せっかくの機会なので書きためていた文章たちの一部をnoteに残しておこうと思い、書いたものです。
いまはZINEの制作どころではない状況や気持ちなので、また別の機会に完成させるぞ!そのときは「我が家のお夜食」も載せる予定です。


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