見出し画像

箱根駅伝2025振り返りと私の箱根駅伝

2025年からnoteを始めました。
八木勇樹です。

表題の箱根駅伝2025の振り返りを始める前に、まず私の自己紹介から始めます。
経歴
西脇工業高校→早稲田大学→旭化成→株式会社OFFICE YAGI

経歴についての詳細はまた後日noteにて書いていこうと思いますので、今回は割愛します。

箱根駅伝については3回走っており、以下区間順位と成績です。
大学1年:7区区間2位 総合2位
大学2年:5区区間9位 総合7位
大学3年:9区区間2位。総合優勝
大学4年:出走なし(故障のため)


大学3年時は、早稲田大学が総合優勝し、出雲駅伝・全日本大学駅伝含め、「大学駅伝3冠」を達成した時でもあります。
大学3年時の優勝が注目されていますが、私の中で特に印象的なのがその前年の5区山上り。私と同期には柏原竜二がいます。そうです、「2代目山の神」です。その柏原が後ろで20秒差で追ってくる展開となり、箱根湯本(5km地点)であっけなく抜かれ、私の区間だけで6分もやられて惨敗しました。
当時、山上りの候補者2名が箱根駅伝1ヶ月を切ってからの体調不良により急遽抜擢されたわけですが、平地の練習は抜群にできていた中で、ある程度自信がある状態で臨んだ結果が惨敗。当時から箱根駅伝に対するメディアの注目度が高く、後日道を歩くのも恥ずかしい思いをしたのは今では良い思い出です。

そんな形で、箱根駅伝の優勝も惨敗も味わった私が、今年の箱根駅伝を振り返っていければと思います。

青山学院大学の「チームとしての強さ」が目立った箱根駅伝2025

今年の箱根駅伝はまさに青山学院大学のチームの強さが際立った駅伝でした。
これはどういう事かというと、戦前の出雲駅伝・全日本大学駅伝ではともに、1位國學院大学・2位駒澤大学・3位青山学院大学でした。
距離区間ともに、出雲駅伝→全日本大学駅伝→箱根駅伝と増えます。その中でトラックシーズンで、鶴川選手・黒田選手・若林選手が10000mで27分台を出すなど、例年以上に好記録を出した中で、出雲・全日本で勝てなかったということで、
「國學院大学の大学駅伝3冠なるか!?」
「青山学院大学は箱根駅伝で連覇できず負けるんじゃないのか!?」
という声も出ていました。

ただ、私は今回の箱根駅伝では青山学院大学の優勝が濃厚と思っていました。
それは何故か!?トラック種目では長距離種目としては5000m・10000mがあり、出雲・全日本は同様の距離でトラックのトレーニングである程度走れますが、箱根駅伝は別物です。ハーフマラソンの距離を10人が走ります。そして何より箱根駅伝の勝ち方を知っているからです。

箱根駅伝の勝ち方・走り方

近年、大学陸上界の競技レベルの水準は飛躍的に上がっています。5000m・10000mでも好記録が続出し、私たちの時代(2008-2012)では、5000m13分台・10000m28分台が大学生で一流の証でしたが、今では前述の上位3チームでは、箱根駅伝出走の当落線のレベルになっています。
それだけレベルは上がっており、5000m13分20秒台・10000m27分台のランナーが複数人いる大学が複数校出てきています。
そんな中、「箱根駅伝の勝ち方・走り方」を知っているアドバンテージというのはとてつもなく大きい。
イメージでいうと、トラック練習に特化してスピード・スピード持久力を磨いて出した記録と、箱根駅伝の20kmの距離のトレーニングをしながら出す記録では、記録の価値は同じでも対箱根駅伝においては、まるで異なるアプローチだからです。

優勝を知らない世代がいない

また、大学スポーツの特徴は、いくら強い選手が入学しても4年後にはいなくなるという事です。つまり4年すると全く違うチームになる。1年ごとに入学生と卒業生が出ますが、その中でいかに「強いチームにするか」ということを考える必要があります。
これはスカウティングだけの話ではなく「強くなるためのチームビルディング」です。
青山学院大学の強さはここにあると考えています。
青山学院大学は選手層もさることながら、年を重ねるごとに確実に選手育成ができています。よって、最上級生の4年生が箱根駅伝で出走し卒業して穴ができたと思われても次の4年生がまた強くなっているということです。
「そりゃ継続して練習していたら速くなるよね!?」
と思われがちですが、そんな簡単ではありません。
事実、私たちの代では、インターハイ日本人1位2位3位(八木・三田・中山)に加え矢澤が加入しましたが、優勝したのは大学3年時で、4年時は4位に終わっています。
私たちの代以外で他校でも「黄金世代」などと強い選手が同期で一気に入学しても、その世代が最上級生の4年次に優勝したケースは実は多くありません。
これだけ、チームビルディングというのは難しさがあります。
そんな中、青山学院大学は2015年の初優勝から2025年までの11回で8回も優勝しており、優勝しなかった年でも2位が2回、4位が1回と上位におり、最も特徴的なのが、「連敗していない」ということです。青山学院大学は箱根駅伝で負けた年の次の年は必ず優勝しています。
つまり、最上級生で勝てなかったとしても、4年間を通して最低2回もしくは3回は優勝しており「優勝を知らない世代がいない」ということです。

これは相当なアドバンテージです。
これまで、優勝したチームがその後連覇や2-3年以内にもう1度優勝しているチームは多いです。
しかし、その後優勝から遠かった時にシード落ちや予選落ちといったことになるチームが多いです。
つまり、「勝ちを知らない選手のチーム」になった時に、チームは途端に弱くなります。
これは、チームの雰囲気や当たり前の水準が下がることが考えられます。

いかに勝ち続けられるチームを作っていくか。選手の意識レベルをより高い状態で持続させられるか。これは監督が口で説明して理解できるものではないのが難しい点だと思います。

そういった中では、國學院大学の大学駅伝3冠の可能性はあったものの、箱根駅伝での優勝経験がなかったことから、2021年・2023年優勝の駒澤大学が青山学院大学の対抗馬だったといえます。

ただ、駒澤大学は、エース級の佐藤圭汰選手が故障の影響で出雲駅伝・全日本大学駅伝を欠場しており、4年生エースの篠原選手はトラックでは好記録を出したものの、出雲・全日本と本来の力を発揮できていなかった中での箱根駅伝ということで、前述の「ハーフマラソンの距離を10人走る」という点での準備が、できていなかったと考察しています。
というのも、大八木総監督による「gGOAT」というプロジェクトを発足しており、トヨタ自動車の田澤選手や鈴木選手という駒澤大学OBがいる環境下で、世界を目指す体制として非常に良い取り組みである一方で、強くなるとよりトラックで世界を目指す練習にフォーカスする環境によって、箱根駅伝へアジェストしきれない状態になっていたようにも思います。
※批判ではなく、今回の7区の佐藤圭汰選手の走りのように世界レベルの選手がより多く輩出できた時に、圧倒的なチーム力となって勝ち続ける可能性を秘めています。

レース展開

前置きが長くなりましたが、箱根駅伝2025を振り返っていきます。

1区は失敗できない区間

レースは1区のスタート直後の吉居選手(中央大学)の飛び出しから始まります。
後続は牽制気味で差が広がる中、レースは進みます。
1区は失敗できない区間です。過去1区で区間2桁でトップから2分-3分の差がついたチームがその後エース級の選手が走っても上位に浮上するケースはほぼありません。それぐらい1区で失敗しないことは大切で、優勝候補のチームとどれぐらいの差で走るかというのを意識します。
今回でいうと國學院大学・駒澤大学・青山学院大学の3校が優勝候補だったこともあり、この3校が互いに意識し合って牽制となりました。一方で中央大学は吉居選手以外にも溜池選手や本間選手といった強い選手がいますが、箱根駅伝の距離や区間の特性を考えると、後半区間で追いつけると考え、1区で追っていかなかったことが考えられます。

2区は稀に見ぬハイレベルに!後半の落ち幅が少ない選手が区間上位に

2区はエース区間で「花の2区」と言われています。前半突っ込んで非常に速いペースで走るイメージがあります。コースの特徴としては、前半は平坦で後半15kmからの権太坂と19kmからの不動坂があります。そして実は、後半の2つの坂での失速幅が大きく、この坂で減速しなかった選手が区間上位にきます。

今大会では、ほとんどの選手が前半から突っ込みました。特に山口選手(早稲田大学)は前半で篠原選手(駒澤大学)を抜き去っていきました。そんな中、黒田選手(青山学院大学)は前半でそこまで速く走っておらず、途中の区間順位でも上位にはきていませんでした。それが後半CM明けなど気がついたら前の方にきており、区間新記録を樹立する見事な走りでした。また、吉田選手(創価大学)も自分のリズムで淡々と前を追って走っており、黒田選手を1秒上回るタイムで区間新記録を樹立しました。
そしてなんといっても2区の区間記録を振り返ると、区間賞のエティーリ選手(東京国際大学)の1時間05分31秒、区間2位の吉田選手(創価大学)の1時間05分43秒。区間3位の黒田選手の1時間05分44秒から区間21位相当の森川選手(関東学生連合)の1時間08分58秒と、なんと出場選手全員が1時間09分以内で入るという意味の分からないぐらいのハイレベルになりました。一昔前だと、1時間06分台だと区間賞有力候補、1時間07分台は区間上位、1時間08分台でかなり良い走りをしたという感じでしたが、今年は区間10位が1時間06分55秒という史上最高レベルの2区でした。

将来の大学陸上界を引っ張る可能性のある3区本間選手

1区からトップで襷を繋いできた中央大学。3区は11月のMARCH対抗戦で27分台をマークした本間選手です。3区は遊行寺の坂を下ってからフラットなコースとなりますが、私は本間選手は区間賞間違いなしと思っていました。その理由は、MARCH対抗戦から1週間後に私たちが主催しているロードレース「THE DISTANCE GAMES」に出場し、余裕を持って1時間02分45秒で走破しました。間近で走りを見ましたが、軽やかなフォームで1人だけかなりのゆとりを持って走っており、前週のレースとの安定感から、箱根駅伝では区間賞候補筆頭だなと思いました。
まだ大学2年生でのこの安定感は将来、大学陸上界を引っ張る存在になるんじゃないかと密かに期待しています。

駅伝で抜群の勝負強さを見せる4区太田選手の快走

4区の太田選手(青山学院大学)は、昨年3区で絶好調だった佐藤圭汰選手(駒澤大学)をぶっちぎっていくという衝撃的な走りをしました。皆さんも衝撃を受けたと思います。完全に流れを青山学院大学が持っていきそのまま総合優勝するという優勝を決定づけた太田選手ですが、今回は4区に起用。2年時に続く4区の起用です。やはり抜群の安定感です。ロードでどんな展開でも自分の力を発揮できる能力を持っています。トップの中央大学との差をグングン詰めて区間2位の青木選手(國學院大学)に45秒差をつけての区間賞を獲得しました。

若の神降臨、本大会の最重要区間

5区は27分台ランナーが複数人走ることになりました。
若林選手(青山学院大学)
斎藤選手(城西大学)
そしてこの2名以外の有力候補として、ここにロードで覚醒した山川選手(駒澤大学)、出雲全日本でひっそりとエース級に成長した「山の名探偵」工藤慎作選手(早稲田大学)。

今回の箱根駅伝は5区で決まったといっても過言ではありません。
若林選手がのちに語っている記事にもありますが、「平地と山上りは別物」という点です。5区の時点で優勝は青山学院大学と駒澤大学に絞られた形でした。全日本大学駅伝で快走した山川選手(駒澤大学)がどこまで差を縮められるか。が注目されていましたが、逆に差が広がる展開となりました。(区間4位で若林選手と1分44秒差)斎藤選手も10000m27分台という力を持って臨みましたが、区間3位(若林選手と1分39秒差)でした。区間賞は若林選手で1時間09分11秒の区間新記録でした。

ここで私の経験も踏まえての考察ですが、山の走りでは平地に比べ傾斜があるため接地がより身体の前となり、重心移動の際に大腿四頭筋を使います。そして骨盤が後傾位になるため、背中が丸まりやすくなり、上半身と下半身の連動が取りづらくなります。
走力だけでなく、適性や対策が必要となる区間で、年間通して準備できてきたか、走力で押し切って行こうとしたかの差が出たように思います。
※2010年の私は後者でした。

ダメ押しの6区野村選手の56分台

往路終了時点で青山学院大学に流れが行っている中で、6区の野村選手(青山学院大学)がダメ押しの区間新記録。史上初の56分台の大区間新記録でした。本大会で金栗杯・MVPともに受賞する会心の走りで後続を引き離し、優勝をより決定づける走り!

佐藤圭汰選手、意地の区間新記録

7区、ここには有力選手が複数人配置されました。
佐藤選手(駒澤大学)
岡田選手(中央大学)
吉岡選手(順天堂大学)
各大学、復路の早い段階で流れを変えたいという思いからでしょう。
そんな中、故障の影響も懸念されていた佐藤選手ですが、圧巻の走りでした。従来の区間記録を大幅に更新する1時間00分43秒の区間新記録で青山学院大学との差を一気に詰めて、8区以降の展開では駒澤大学の優勝の可能性が再び出てきた走りでした。

レベルの高い8区に

8区は後半遊行寺の坂を上ります。復路の繋ぎ区間でもありますが、順位変動の起きる区間で特に後半の疲労がある中での上り坂を走るというのは足ができていないと走れないタフな区間です。
区間賞は塩出選手(青山学院大学)で1時間04分14秒。トップを走りながら自分のペースで走り区間賞という箱根駅伝の復路の勝ちパターンの走りでした。そんな中、区間8位までが1時間04分台というハイレベルな区間となりました。
各大学の選手層の厚さを垣間見た区間となりました。

復路のエース区間、青山学院大学が盤石の体制に

青山学院大学の9区は田中選手。4年生で卒業後はアナウンサーに。
区間賞は桜井選手(城西大学)の1時間08分27秒。区間2位が田中選手の1時間08分40秒。前半アップダウンがあり、後半は平坦の区間となります。
2位以下を大きく離して、青山学院大学は独走体制を築いていました。こうなると前半ゆとりを持って、後半失速のリスクを抑えた走りとなりますが、その中で区間2位と安定したペースで刻んでいたのはさすが最上級生でした。

10区、唯一の1年生が区間賞

最終10区。青山学院大学は出走10人で唯一の1年生である小河原選手。選手層の厚い今年の青山学院大学で唯一の1年生の起用ということでこの経験が大いに来年につながると思います。そんな中、なんと区間賞を獲得。1年生ながら良い練習を継続できていたのでしょう。

ハイレベルなシード争い

優勝の青山学院大学が10時間41分19秒で大会新記録。10位の帝京大学が10時間54分58秒。11位の順天堂大学は10時間55分05秒でした。
順天堂大学は1秒差で予選会を通過し、7秒差でシード権を逃すことになりました。
しかし、10時間55分05秒は例年だとシード権獲得だけでなく5位前後の順位です。
私たちが優勝した2011年大会で史上初の11時間ぎりで10時間59分51秒の大会新記録でしたが、それから14年。とてつもなくレベルが上がりました。
各大学、より一層のレベルアップが必要になるため、取り組みもよりレベルの高いものになりますね。

青山学院大学をとめる大学は!?

青山学院大学が来年は3連覇と大学駅伝3冠に挑むことになります。
今年の箱根駅伝のうち、一番大きく変わるのは5.6区の区間新記録を樹立した2人が卒業することです。ただでさえ特殊区間のこの2区間で圧倒的な走りをした2人が抜ける穴は大きいです。
ただ、青山学院大学、そして原さんは「問題ない」と言わんばかりにまた次なる選手の育成をしている事と思います。
青山学院大学の強さが今年はさらに増えました。それは、トラックでも世界レベルを狙えるという事です。今年はなんといっても鶴川選手の成長が目覚ましかった。箱根駅伝では4年時のみの出走となり、今回は力を発揮しきれていなかったが、トラックでの5000m13分18秒と10000m27分43秒の記録はまさに大記録で、ともに青山学院大学記録。
これが意味するものは、つまり高校生のスカウトが更に成功するという事です。
箱根駅伝という目標もさることながら、トラックの記録を狙うことも可能になると、高校生はより一層青山学院大学に魅力を感じると思います。
そんな中、青山学院大学の連覇をどこがとめるのか。
正直分かりません。そして仮に1回負けても次の年にまた優勝していそうな気がします。
それぐらい、今の青山学院大学はチーム力が強すぎます。

最後に

箱根駅伝がもたらす影響は絶大です。それは良い点もあれば悪い点もあります。
箱根駅伝を夢見て陸上競技を始める人もいるでしょう。
大学スポーツの枠にとどまらず、日本の一大イベントの一つでもあります。
日本が陸上競技の中長距離種目が盛んなのは、間違いなく箱根駅伝が影響しているでしょう。
一方で、卒業後に競技を続ける人は、これ以上の注目度の大会はほぼ無いため、競技力と注目度のギャップに苦しむ人もいるでしょう。
私自身は非常に良い経験だったと思っています。その後旭化成に進み、なかなか思うような結果を残すことはできませんでしたが、箱根駅伝を通してたくさんの人に注目・応援してもらえることの素晴らしさや、注目度が高いが故の重圧もアスリートとしては克服するために必要なものだったと思います。そして卒業後も1月3日に母校を応援しようと集まって、その時の思い出話をしたり。

箱根駅伝を走った人も走れなかった人も、サポートした人も、応援した人も。
毎年やってくるけど、毎年ストーリーがあるこの箱根駅伝を、毎年ただただ楽しみましょう。

いいなと思ったら応援しよう!