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(新々)三つ子の魂百までも 36



いつもの様に、ソファーに座り、僕は裕美さんの横だ。
事務所には、僕たちだけである。
他の連中は、外に出かけている。
もう冬の本番で、外での追跡となると結構辛い。
僕達は、温かい事務所での対談だ。

「お久しぶりですね。櫻子さん、以前猟奇殺人事件の時
お会いしましたね。覚えていますか?」
と、僕は名刺をもらい直ぐに、言った。

「覚えていますよ。あの時はお世話になりました。
今回も、面白い記事になりそうですね。」
と、桜町は微笑んで云う。

……記事(週刊誌)さえ売れれば、
人が危険な目に遭っても平気なのか!……

と、僕はその様な想いで桜町を見つめた。
「あのビルは有名な霊スポットだと聞いていますが、
桜町さんは、行かれましたか?」
と、僕は冷ややかに聞いた。

「私はまだ行った事はないです。この前、林田さんが写した
写真には霊が写っていたですね。私 ビックリしました。」

……林田の奴、裕美さんが撮った事を言って無いのか!
自分の手柄にしている……
林田は平然と桜町の横に座っている。

「いえ、あの霊を写したのは、裕美さんです。
林田さんは、最近霊を写せないそうです。」
と、僕は遠慮する事も無く暴露した。

林田の顔は少し歪んだが平然としている。

「ところで、今日はどの様な要件で来られたのですか?」
と、裕美さんは明るく聞いた。

「今日、お伺いしたのは林田さんに依頼した件でお聞きしたいので来ました。
この有名な霊スポットのビルですが、
あの写真に写っているのは、間違い無く
霊ですか? 私には何かモヤにしか見えないのですが・・・」

「そうですか、モヤに見えますか?
霊と言っても存在が明確にある訳では無いので、
あの様な形でしか写らないのです。」

と、裕美さんが言った時
「でも、自分が撮った写真は、明確に写っていましたよ」

と、林田は威張って云う。

「でも、今は霊を撮れないんですね」
と、僕は冷笑した。

「中学生の手紙によりますと、自分の友達と
父親が亡くなったと書いてありましたが、
この人達の死因は、霊の仕業ですか?
この事の解明に飯島さん達が臨んでいる
と、林田さんにお聞きしています。
現在のところ、どこまで解明できましたか?」
レポーターのように桜町は聞いてきた。

「解明ですか・・・・。そうですね。
今、解っているのは、あのビルで殺人事件があったのは確かですね。
あの家族の霊が写っていましたね。」

「あのビルで起きた殺人事件は、私も色々調べてみましたが、
殺人犯が自殺した為に、詳しい動機は不明でした。
飯島さんは、その殺人犯の霊と交信したのですか?
動機が判ったのですか?」
興味深々で訊ね、身を乗り出す桜町。

「私が感じた事をこの前、みんなに言ったのですが、
要するに、『殺人犯がその奥さんに横恋慕して恨みを持った挙句に
一家を惨殺し、殺人犯は飛び降り自殺した。』
のです。
犯人の動機は、奥さんに対する恨み、怨恨です。
犯人は以前、その奥さんの元彼です。」

「なるほど、・・・・。奥さんの異様な殺され方は・・。
納得がいきますね。怨恨ですか・・・・」

桜町は、納得したのかソファーの背にもたれる。

「私が許せ無いのは・・・」
と、裕美さんの目に怒りの色が滲む
「一番最初に、まだ幼い子供を殺した事です。」

「子供を最初に殺した!・・・・」
桜町はまたも、身を乗り出してくる。

「そうです。一番最初に子供を手に掛けた!
子供には、何の罪は無いのに!
許せない、あの男は!」

と、裕美さんは、もう死んでしまった男に対して、
生きているかの様に、憎んでいる。

「今、飯島さんがおっしゃった事は、
この事件を報道した以前の記事にも書いてないです。
子供を一番最初に殺した事です・・・・
次に誰を殺したのですか?」

「あの時、子供がアパートの廊下で一人で遊んでいたの。
この子は、自閉症だったかも知れないわ。
いつも一人で居たみたい。友達を求めていたのかも知れないわ。
・・・・。」
裕美さんの言葉は、先ほどの怒りの声では無く、穏やかに変わる。

「子供さんは自閉症ですか・・・・。」
と、頷きながら聞く桜町。











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