見出し画像

エピゴーネン(2分で読める小説)


振り返れば、僕の人生はつまらない物であった。
親からは借金の保証人にされ、借金を背負うはめになる。
妻は若い男とトンズラし、息子達と言ったら家出して行方不明。
天涯孤独の私には友達もいない。何一つ良くない人生。
誰からも尊敬された事も無い男。
人から見下され、馬鹿にされ惨めに生きてきた。
生きるのが辛くて何度も自殺を考えたけど、
怖くて死ねなかった。
こんな僕の事など誰も良くは思っていないだろう。

もう直ぐこの人生にも終わりを告げる。
そんなある日、僕を見つめる黒い人影。
…何だあれは?ついに来たのか死神の奴め…
と、睨んでやった。
すると、その黒い人影が笑みを浮かべて僕の元に来るのだ。
…遂に僕も年貢の納め時か!…
と、覚悟を決めたのだが、彼は予想外の事を口走る。

「貴方ほどの悲惨な人生は、あまり見かけた事がありません。
なのに貴方は強い意志を持ち、犯罪にも走ず悲惨人生であっても
正々堂々と生きてこられた。
これは実に素晴らしい事です。

悲惨な人たちが悪に手を染めない為にも
貴方の素晴らしい人間性を、彼らに模倣して欲しい。

その為には貴方をモデルにした映画を作りたい。
いい遅れましたが、私は黄泉の国から来た映画監督の黒澤です。」
と、訳の解らない事を真顔で言われた。

「映画って何処の映画ですか?」
「決まっていますよ。黄泉の国の映画です。
その為に貴方をスカウトに来たのです」
「黄泉の国って、あの世でしょ」
「そうです、あの世です。今あの世は悲惨な状況なのです。
この世にいた時、悲惨な人生を送った人達が、
あの世でヤケクソになって当たりまくって、暴れているのです。
閻魔大王もお手上げで、鬼達はその様な輩に虐められ泣いています。
『悲惨な人生はお前達だけではないんだ!この様に悲惨な目にあっても
清らかに生きて来た人がいるんだ』と言うことを訴えたいのです。
一日でも早く貴方がこちら来て頂きたいのです。」

と、私にとって嬉しいことなのか?
悲しむべきの事なのか?
答えが解らず返事に窮してしまう。

私が模倣されるなんて!
今での人生では一度も無かった嬉しい経験。
喜びが身体中から溢れてくるのが感じられた。

生きていて良かった!!
本当に生きていて良かった。

でも、僕は明日死ぬらしい?!。

いいなと思ったら応援しよう!