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(新々)三つ子の魂百までも 20



女の人の涙は、男心をくすぐる。
僕は女の人を泣かせたりはしない男。
逆に泣かされた事はあるが。
「公ちゃん。この事件、写真を見ないと確信出来ないけど、
本当にヤバいよ。覚悟してよ」
と、言う。

僕の鼓動は自然と高鳴る。
……覚悟するって何? いつものふざけた脅しか?……

と、瞬間 僕は感じたのであるが、
裕美さんの目の力は尋常ではない。
ふざけ目では無い。怖いぐらいの真剣さ。
これこそ、命を懸けた戦いの目だ!

僕は武者震いか、それとも恐怖からか?
身体が自然と震えている。

そして、林田さんは訪れた。

例のカメラを首から下げて、茶色のベレー帽を被り、
紺色のカッターシャツに身を包み、
薄手の黒のジャンバー着こなして、
戦場カメラマンは颯爽とやって来た。

「裕美さん、これ見てください。」
と、林田さん挨拶もする事なく、ソファーに座り、
いきなり封筒から写真を取り出した。
その仕草だけでも、異常事態があった事が推察される。

裕美さんもソファーに座る。
僕は裕美さんの横に座る。
林田さんの姿を見ると、冬だと言うのに汗ばみ
興奮状態の様子が、伺える。

静かに写真を手に取る裕美さん。

僕の目から見ると何の変哲も無い、
アパートの廊下が映る写真だ。

写真は20枚ぐらいあるのだろう?
それを一枚、一枚丹念に見つめる、裕美さん。

僕は居た堪れなくて、
林田さんのコーヒーを淹れに行った。

「どうですか?何か感じましたか?」
と、林田さんの声が炊事場まで聞こえてくる。

事務所内は、私達三人だけ。
ひっそりした空間だと声が炊事場まで届くみたいだ。

僕は、そっとコーヒーカップを林田さんの前に置く。
林田さんの強張った顔が
また僕の鼓動を昂らせた。

「・・・・。解るわ。ここに三人いるね。・・・」
と、廊下の写った写真を林田さんに見せる裕美さん。

……どこに、三人いるの!廊下しか見えないよ?……
と、思っているのだが、遠慮からなのだろうか声が出ない。

写真を受け取る林田さん。
「これは、飯島さんが撮った写真の一枚です。
他には無いですか?」

「これです。・・・・・。この写真だわ!
・・・恐ろしい。」

と、裕美さんは恐ろしいと言いながら、
怒りの表情をあらわにする。

僕は不思議に思い、その写真を見てみも何も恐ろしとは思えない。アパートの壁の写真だった。
名前が書いて有る、あの壁の写真だ。

「やはりそうですか!怖い写真ですか!この写真は。
これも、裕美さんが撮った写真です。
私が撮った写真はこれです。」
と言って、林田さんは別の封筒から写真を抜き出してくる。

何故か、青色の🟦写真ばかりだ。

「私、こんな写真しか撮れなくなってしまいました。」
と、嘆く様に言った。

…確か、林田さん。例のカメラは心の色を映し出すと言っていたな。

だとすると、林田さんの心の色が写っているのか?……

「青写真ばかりですね。でも青🟦は心が綺麗って、林田さん言ってましたね
確か言っていた様に思っていますが。」

「そうなんですが、・・・・。
もう、僕には霊を撮る事が出来なくなった。
心が荒んだのかな・・・」
と、悲しそうにしている。

そんな林田の言葉を無視して、裕美さんは言った。











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