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三文掌編⑤「ぺんぺん草とマスカラと白昼夢」
すすぎから脱水に変わる音が聞こえて、あと少しで起きなくちゃと思うのだけれど目が眠たくて眠たくてどうにも開けられない。洗濯槽に衣服が叩きつけられる一定のリズムが子守唄のよう。開けっぱなしになっていた窓から風が入ってきて肩の辺りが冷える。でも手を伸ばして閉めるのも億劫。
どどん、どどん、と洗濯機が回っている音の間にふと何か別の音が聞こえた気がして今にも眠りに落ちそうな意識を奮いたたせて耳を澄ませ
三文掌編④「青春とロックと2014年」
三連単、1―8―2。もうそれに賭けるしかなかった。
真冬のくそ寒いなか、でかい穴の開いた靴下にサンダルでこんな時間まで残ってたってのにここで負けて帰るわけにはいかねぇ。でも掌には五十円玉が一枚だけ。どうしたもんかと髪を掻き毟っていると、いつも飲み屋で一緒になる名前も知らない常連仲間が通りがかった。俺はもう何も考えずにそいつの肩を叩いて縋る目で見つめた。
この最終レース締め切り前の切羽詰ま
三文掌編③「ドーナツと時計と向う脛」
この手もいつかは灰になるのだ。
そう思うと繋いでいる小さな掌の湿った体温を今ここで感じていることは、とてつもない神秘に思えた。
わたしは母となって娘の手を握っているが、もう娘として母の手は握れない。
長く患っていたから覚悟は出来ていた。いや、出来ているつもりだった。 あちこち動き回るようになった娘の世話と日に日に弱っていく母の間で、わたしはその日に向かってこころの隙間で覚悟の
三文掌編②「雨とチョコとウォーキング」
歩いて帰ることに決めたのは熱波に背中を押されたからだった。
いい加減、涼しくなってもいい頃合なのに季節はまだ夏にしがみついていて次に進もうとしない。それでも草木や虫たちはゆっくりと秋支度をはじめている。頬を撫でる風は生温かかったが側道の草陰からは鈴を転がすような虫の音が聞こえた。
雨上がりだからもっと涼しくなるかと思ったが、むしろ湿気が増したようで歩きはじめるとすぐにじんわりと汗をかいた
三文掌編①「猫と酒と本」
基本的にはオナニーしてるか、それかセックスしてるかだね。
人は驚くとこんな顔をするものなのか。本当に口をあんぐりと開けるものなんだな、と助手席に座る年下の先輩の顔を横目で見て思わず口の端が上がってしまう。
休みの日は何してるんすか、と聞かれてそう答えた。
今の会社に入って大体三年くらい経つ。前の職場の人間関係に嫌気が差して逃げるように辞めて、ここでもそう長く勤める気はなかった