化学の知識が足りないから誤訳するのでしょうか
同業者(特許翻訳者)のブログで、面白いものがあったのでここでシェアしたいと思います。
化学系の日本語明細書の英訳で、文章の係り受けを間違えて訳している、という例が説明されていました。
この例が酷いのは、誤訳しているのに、化学の知識すら持っていない自分を「ハロゲン化化合物は、全体にかかるとして訳しました。」という、謎のコメントで擁護(?)している点だと思っていますが、この原文がどのような構造になっているのかは、さすがに高校で化学Iしか履修していない自分でも理解できました。
と、実は私も最近、似たような誤訳を(別の翻訳者の訳文チェックをしている中で)見かけたので、ここで共有しておきたいと思います。
原文と訳文をそのまま記載することはできないので、少し変えて表記すると、
という英語を、
と、堂々と訳されていました。
これも、記事の最初で引用した例と同じような表現を借りれば、「S基とエーテル基がどのようなものかを理解していない」ことが、誤訳の原因となっていると思います。
そもそも、官能基「-S-」の中に、「酸素」は出てきていませんから、化学の知識がなくても(?)、「酸素で置換された」が「-S-」に係るとは普通考えないものだと思うのですが…。
これが、機械翻訳で吐き出されたものなのか、翻訳者が自ら訳したものなのかは不明ですが(この記事を書きながら、Google翻訳に試しに原文を入力してみたところ、きちんと正しい訳が出てきました)、他の箇所がきちんと訳されているのに、こういうあからさまな誤訳が一箇所出てくるだけで、「この人、本当に化学の基本的なところを理解しているのかな?」と、全て疑ってしまうようになるので、あまり良くはないことだと思います。
しかも、文章や内容がもっと複雑で、ゴチャゴチャしているのだと分らなくはないのですが、ここまで簡単な文章を誤読してしまうということは、基礎的な化学の知識が欠如しているように思えてしまいます。
しごく当たり前の話となってしまいますが、特許翻訳者として化学、バイオ、機械、構造分野などの明細書を翻訳するのであれば、これまでのキャリアに関係なく、その分野の基礎的な部分を学び、理解する必要があると思います。
訳文チェック・レビューの対応をしていて思うのは、仕方のない誤字脱字は、「納期がタイトだったんだろうか」「見直しの時間が取れなかったんだろうか」のように参酌する余地がまだあるものなのですが、こういう、「そもそも基礎的な知識がないのに翻訳をするなよ」と思わせてしまうようなミスは、見ていて気持ちが良いものではない(実際に、基準を満たしていないと思われる酷い「翻訳」成果物を、レビューとして「訳し直し」したことは、何度もあります)ので、翻訳者として最低限の研鑽を続けてほしいのと、あとは見直しの時間を取って、確認をしていただきたいですね。
こういう誤訳が、果たしてセルフチェックでなくなるのかと言えば謎ですが、時間を置いて見直してみると間違いに気付く、ということはよくあることですので。