いまさら『トップガン マーヴェリック』を見て心底ゲンナリした話
2022年5月の日本公開以来、『トップガン マーヴェリック』がめちゃくちゃヒットしている。
2023年3月11日時点で、日本での累計興行収入は136.6億円。日本映画を含む歴代興行収入18位、洋画だけなら5位につけている(同じくトム・クルーズ主演の『ラスト・サムライ』が137億円で4位なので、追い越すのは時間の問題だろう)。
ヒットしているのは日本だけではない。アメリカでは興行収入7億1873億ドルで歴代5位。エグい。ヨーロッパやアジアや中東やアフリカや南米での興行収入は調べていないが、まあ世界中でトップガン・フィーバーが巻き起こったと言って問題なさそうだ。
かまいたち山内のトトロではないが、私はずっと『トップガン マーヴェリック』を見ていなかった。流行に逆張りしたいとか、そんな理由ではない。どちらかと言えば、私は「乗るしかないだろ、このビッグウェイヴに!」といったタイプの人間である。
でも『トップガン マーヴェリック』はなんだか気乗りしなかった。実は以前にU-NEXTのポイントを使ってチケットを予約購入したこともある。が、なんだかかったるくて劇場にはいかなかった。
というのも、いろいろと漏れ伝わってくる話から想像するに、「まだまだ若いモンには負けん!俺たちはやれるんだ!」と中年男性たちの背中を後押しする映画にしか思えなかったから。そんなイケオジ願望を満たすだけの映画をわざわざ劇場に足を運んで見るのは・・・と躊躇していたのである。
だが、とうとう私も重い腰を上げた。第95回アカデミー賞6部門ノミネート記念として、3月3日から全国175館で順次「追いトップガン」上映が始まったという。ググってみるとIMAXで見られる劇場もある。
流石にもう年貢の納め時だと観念し(?)、私はIMAX劇場に足を運んだ。これだけ世界中の人々が心惹かれる映画である。イケオジ願望充足映画という表面的な理解を超えた、なにか強烈な魅力がこの映画にはあるはずだろう、という淡い期待を胸に。
そして劇場に閉じ込められること約2時間半・・・いやはや、本当にしんどかった。
流石IMAXだけあって、戦闘機のエンジン音や、機体が音速で空気を切り裂いて飛行するサウンドの迫力は素晴らしかった。しかしそれ以外は・・・。
はっきり言ってサウンド以外の部分は、すべてが見事に反動的で懐古的でご都合主義的だ。
前評判から予想していたとおり、会社や家庭や世間から疎んじられて自尊心がズタボロになった中年男性に刺さりまくりそうなストーリー。主人公は、才能はあるが経験の少ない前途有望な若者たちを教育すべき立場なのに、最終的にはもどかしくなって「ええい!俺がやる!」と出張ってしまうあたり、一代でそれなりの会社を作ったが後継者を育てられない中小零細企業の社長の典型を見ているみたいだった。つらい。
結局マーヴェリックが戦闘機に乗って作戦を遂行するという展開は、「それ、一番やっちゃダメだろ!」と突っ込みたくなった。しかし映画の中では、「やっぱりマーヴェリックじゃなきゃダメだよね」みたいな空気になって、みんなに尊敬の眼差し&暖かい目で見守られている感じ、キツいです。結局オジサンの自尊心回復にはその道しかないのかと思うと、正直ゲンナリする。
しかも最後は、自分が出張るために押しのけた若者に命を救われたというのに、(若い女性に)「でもやっぱりマーヴェリックが一番よ!」みたいなことを言わせてしまうあたり、むむむむむー、こりゃどうかな、と感じた。
別に私は、男性を中年の危機からサルベージする映画が悪いとは思っていない(むしろそれはいま必要とされているという立場だ)。無条件に若者が偉いとも全然思っていない。でも、『トップガン マーヴェリック』は中年男性のサルベージの仕方と、その描き方のトーンがいただけないと感じた。
『トップガン マーヴェリック』は、「なんだかんだ結局、〇〇さんが一番ですよ!」と言ってもらいたいだけの映画になっている。みんながあなたを必要としていて、例えあなたがどんなに我がままに振舞ったとしても、最終的には「でもコイツ、不思議と憎めないんだよね」と許してもらいたい――そんな中年男性の潜在的な願望が滲み出ている。でもそれは身勝手なファンタジーだ。
「アメリカ海軍 vs ならず者国家」という構図も、びっくりするくらい古臭い。そこには善悪の彼岸みたいな発想は微塵も出てこない。その舞台設定の時点でかなり反動的である。だから、そこに乗っかってくる『中年男性の自尊心回復ストーリー:ザ・バイアグラ』も余計に反動的に感じられてしまう。
欧米では多様性の推進によって、特に白人中年男性に対して「歴史的に自分たちが犯してきた罪を地面に頭を擦りつけながら反省しろ」というムードがひたすら強い。だから『トップガン マーヴェリック』のような形で極端な反動が起こるのは理解できる。
ストーリー設定をめちゃくちゃわかりやすい善悪二項対立に落とし込んでいるのも、陰謀論台頭以降の「真実」や「常識」の行き過ぎた相対化に人々が疲れ果てたことの表出でもあるのだろう。
そう考えると、『トップガン マーヴェリック』の空前の大ヒットは時代の必然だったのかもしれない。だが、決してそれが前向きな事象だとは思えない。