医師A「イチローはプロじゃない」【プロフェッショナルとは】
プロフェッショナルとはなんなのでしょうか?
皆さんはどんな医師を御所望ですか?
・腕が良い医師
・なんでも優しく相談に乗ってくれる医師
・有名な医師
・信頼感のある医師
医師が社会に求められることはなんなのでしょうか?
一般的に”医師”という職業はプロフェッショナルであると言われています。
今回は、「医師として求められる”プロ”ってなんなのよ」ってことについて考察していきたいと思います。
(このように、医師の立場から一般向けに”タメ”になりそうな話題をnoteにしております。是非とも ♡ と フォローをよろしくお願います。)
⓪イチローの話
Q.イチローはプロですか?
→答えはYesと言いたいですが、今回のプロの定義においてはNoです。
何故なのかは、以下をご覧下さい。
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①プロ?エキスパート?スペシャリスト?
よくよく考えたら似たような言葉が3つあることに気がつきます。
皆さんは違いはわかりますか?
(以下、[南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました]より転載(https://moura.hateblo.jp/entry/2020/12/06/015744))
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・エキスパート…
特定の技能が優れている人だが,自己完結している。(その能力を誰から求められる必要はない)
・スペシャリスト…
特定の技能が優れているだけでなく,あくまでクライアント(依頼人)が必要になる。(その技能を欲している人がいる。)
・プロフェッショナル…
あるクライアントに求められると言うよりも社会全体に求められている。
例えば医者・学校の先生はコミュニティーがそうなってほしいと欲している。
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プロフェッショナルの語源から考えてみましょう。
・Profess…公言する、公約する
つまり、”プロ”とは社会全体に求められている前提で 、それに応える形で社会に対してProfess(公約)している人間ということになります。
では、それはなぜでしょうか?
古典的プロフェッショナルと呼ばれる職業は3つあるようです。
⑴ 医師
⑵ 弁護士
⑶ 聖職者
これらの職業の共通点として、
・(社会的・身体的)弱者の立場と向き合う
・プライバシーを扱う
・社会のために尽くす必要がある
といった側面があります。
つまり、語弊を恐れずに言うと、イチロー選手は”野球”という1つの側面から見ると、”スペシャリスト”に当たりましょうか?
(野球の技能に長けているだけでなく、球団というクライアントがいる)
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②なかなかうまく行かないケース
医師憲章における医師の基本原則を紹介します。
紹介しつつ、現実はなかなかうまくいかないぞ!
ってツッコミを入れていきます。
◉基本的原則(Fundamental Principles)
Ⅰ. 患者の福利優先の原則
→”本当に患者の利益になるのか?”を考えよーってこと。
良かれと思って処方した睡眠薬によって、
食べ物をつまらせてしまうリスクが上がるかもしれません。
”本当の患者のため”を追求するのは難しいです。
Ⅱ. 患者の自律性(autonomy)に関する原則
→医学的に正しいから「こうして!」って決めつけないでねってこと。
患者さんの考え方に寄り添って、よりよい意思決定を
追求していこうねーみたいな。
しかし、複雑化したケースにおいてはある程度、医師主導で
患者さんを導いてあげた方が良さそうなケースもあったり…
(毎回、全ての選択肢とメリット/デメリットを説明するのは
不可能…)
Ⅲ.社会正義(social justice,公正性)の原則
→社会的に正しいことをしろってことです。
でも医療資源は有限です。
つまり、夜中に呼び出されて寝ずに診療したせいで、
翌日のパフォーマンスが落ちてしまうこともあります。
こんな風に、”プロ”として求められる医師像を全ての医師が体現できればいいのですが、現実はうまくはいきません。
医療資源は有限であり、医師の体力も無限ではなく、医療従事者それぞれに生活があります。
様々なケースで”プロフェッショナリズムが揺らぐ”場面があるのです。
Ex)胃から”今まさに”出血していることが予想されるのに、
”猫がいるから”といって、なかなか入院してくれない独居の中年男性。
Ex)とある医師が有給休暇をとってハワイへ家族旅行へいこうと羽田空港で滞在している最中に入院中の自分の担当患者さんが急変しており、かつ、家族と病院側で揉めている…病院へ戻ったら家族が…でも…
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③答えはない →そして、新世代の医師に求められること
プロフェッショナリズムの”ism”とはなんでしょうか?
そこに、答えの鍵が含まれていると感じました。
「安倍イズム」「早稲田イズム」etc…
"ism” = 主義・流儀・傾向 という意味があります。
先ほどの例に挙げたように、”命より大事な猫”がいたり、机上では”VS 疾患”でありますが、臨床では”VS 人間”であり、特定の最適解などは存在しないのです。
「あれでよかったのかな…」
「あの時こうしておけば…」
常に、”経験” → ”振り返る” → ”意識付け” → ”経験” のループを回し続けて、成長していく、「省察(せいさつ)的実践家」である姿勢そのものが、
プロフェッショナルの姿勢(=プロフェッショナルなism)なのではないでしょうか。
周囲の人たちと”振り返り”を行うことが大切であると感じました。
”目標を設定してひたすら邁進する”のは一般的には良いこととされますが、医療においてはむしろ脆弱性を孕んでいて、答えのないところで落とし所を探し続けていく、”いい意味での暗中模索”こそが、医師に求められる姿勢ということです。
「彼方(あちら)を立てれば此方(こちら)が立たず」
ってことばかりです。
しんどい…
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少し話は変わりまして、現代はBIG DATA・クラウドの時代となっており、私たちを取り巻く環境も目まぐるしく変わってきております。
ヨーロッパではAIによる問診により、想定される疾患を絞って受診するべき医療機関を選択できるシステムが発達している国もあります。
今や家電製品のことを調べようとする時に、YouTubeで検索する人も珍しくないのではないでしょうか?(昔は家電量販店一択だった…)
医療もEBMが発達しており、数年以内には一般の方も簡単に正確な医療情報にアクセスできる時代は訪れるでしょう。
正しい医療情報を与えることはAIにおまかせして、我々医師が新時代に求められることは、意思決定支援や個別性の尊重・社会的調整などへシフトしていくことでしょう。
※p.s. 噛み砕いた医療情報をYouTubeで発信しているので、
是非気になる動画があればご覧ください!
コメント欄にもし皆さんが臨床や医療以外の現場でも葛藤したり”プロフェッショナルが揺らいだ”例などあればシェアしていただけると幸いです。
是非振り返りましょう。
では!