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The one who could repeat the Summer day —夏を繰り返す者は


The one who could repeat the Summer day —
Were greater than itself — though He 
Minutest of Mankind should be —

And He  — could reproduce the Sun —
At period of going down —
The Lingering — and the Stain — I mean —

When Orient have been outgrown —
And Occident — have Unknown —
His Name — remain —


夏を繰り返すことができる者は
夏よりも偉大だ
どんなに小さき者でも

沈みゆくあの夕陽を
いつまでも名残惜しい時を
思い出させてくれる者ならば

いつか太陽が追い越され
夕陽を見た場所を忘れてしまっても
彼の名前は残る

私の心に ——


ディキンソンの詩は、まだまだ読んでいないものがたくさんあります。
それでも、自分が今まで読んだ中で一番好きな詩を一つあげるとすれば、
それはこの作品です。

あの日、彼と眺めた夕陽

たったこれだけの小さな(minutest)、
しかしそれでいて強い(great)イメージから、
僕はこの訳をつくっていきました。

The one who could repeat the Summer day —

夏を繰り返すことができる者

まずはこの謎めいた表現からいきましょう。

この表現はいったい何を意味しているのか。
それは実際かなり謎めいていて、
詩全体の意味を方向づける重要性を持っているにも関わらず、
全体を読んでも、これだ、と腑に落ちる答えは得られません。
夏を繰り返す、
みなさんはどういう意味だと思いますか?

日本語で考えていても行き詰まるのであれば、
原詩の言葉に帰ってみる。

repeat、

リピート再生、
という言葉が浮かんできました。
再生する、音や映像、そういった動きのあるものを。
再生する、一度刻まれた音や映像を再現すること。

さてここでは、
何を再生するのだったか。

the Summer day
あの夏の日

すると夏を繰り返すというのはつまり、
夏の記憶を再生する、思い出す、
ということではないかと思えてきました。


ではその夏の記憶はどのような情景だったのでしょうか。
ここから2連目です。

And He  — could reproduce the Sun —
At period of going down —

彼は、沈みゆく時のあの太陽を再現することができる

これをrepeatの解釈と合わせると、
先ほど僕が抱いた、

あの日彼と眺めた夕陽

このイメージが固まってきます。

2連目の最後に登場する、

I mean

じつにさらっと、さりげなく書いてあり、大した意味はないかのようです。たしかに、意味としてはそうかもしれない。しかし、やはりどんなにさりげなくとも、この詩にIが出てくるという事実には、無視できないものを感じます。

He, I, the Sun.
彼と、私と、太陽……


3連目にいきましょう。
Orient= 東方→日が昇る場所
Occident= 西方→日が沈む場所
と、これまでのイメージと整合するように捉えてみます。

the sun rises in the east.

太陽は東から昇る。

思い出が自然と思い出されるさまを、太陽が昇りそして沈んでいくという自然のサイクルに、イメージとして重ねることもできるかもしれません。

思い出を、思い出すということ。

それは、I(私)が楽しかった記憶を意識的に思い出す場合もあれば、私の外にある自然(the Sun)が、私の記憶を思い出させる、という場合もあるでしょう。しかしいずれにせよ、それが忘れたくないと願う幸せな思い出であったとしても、人はいずれその思い出を、あまり思い出さなくなっていくものです。それが悪いことだとかは、僕には言えません。それはある意味ではとても自然なことで、なぜそうなるかといえば、ひとことでいえば、それは人が大人になる(なってしまう)からです。この詩に寄り添った表現でいうと、身体が成長して子どもの服が着られなくなる(outgrow)、あるいは、新しい環境に適応する(orient)。

それでも、まだ終わりじゃない。私でも、太陽でもない、He(彼)がいるから。

私が一人の力ではもう思い出せなくなっても、

自然が時を押し流し私から思い出を奪い去ったとしても、

あの日見た夕焼けは綺麗だったね。

彼が、もしそういってくれるのなら。

あるいは彼の名前を思い出すとき。

たったそれだけで、夏はよみがえるのです。


思い出そうとする自分ではなく、思い出させる太陽でもなく、

あの時を共にした人が、思い出を語ってくれるかもしれない。

夏を、繰り返してくれるかもしれない。


そのことの嬉しさ。

彼の尊さをうたって。


Repeat after me.

さあ、

夏への扉をひらこう。


『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR

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