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江戸時代に来日を果たし、思いがけず「柚餅子」(ゆべし)を食べる機会に恵まれたバッハ
江戸時代: 1603〜1868年。
柚餅子: 柚子を用いた加工食品。
バッハ: 音楽を愛するみんなのお父さん。Johann Sebastian Bach. 1685〜1750年。
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雲をつかむような食感。ふんわりと漂うゆずの香り。
ただそれだけのことが、わたしに悠久の時を感じさせた。
太古の時代から、この土地で繰り返されてきた天と地のみわざ。その情景は類まれなる感性をもったこの国の人々によって、たびたび歌に詠まれてきた。
また一方、この国には天と地のはざまにあって沈黙を守りながら、黙々とこの「柚餅子」を紡いできた職人たちがいる。その情熱と技量のおかげをこうむり、いまわたしは日本のこころを、その風景を目の当たりにしているのだ。
初めてみるはずなのに、どこか懐かしい。わたしは遠い故郷の、そのまた遥かさきにあるはずの、いつも心の中で思い描く楽園のイメージを、しらず、しらず、そこに重ね合わせていた。草をはむ羊のように安らかな気持ちでそのまま眼を閉じると、柚子の香りに乗ってどこからか、こころよい調べがきこえてくる。私はそれを写し取ろうと五線譜にペンを走らせたのだった。
タイトルは何がいいだろうか。
この音楽もまた神の恵みであるから「主よ…」
それとも珈琲とともに食したから「コーヒー…」
いや、ここはやはり、このお菓子の食感によって導かれたわたしの心象風景にちなんで、
「羊は安らかに草を食み」
これにしよう。