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Exultation is the going —

こんなに静かな
薄紅の夜明けに
まだ誰も知らない
憧れの歌が
高らかに始まる

Kalafina『夢の大地』

Exultation is the going
Of an inland soul to Sea,
Past the houses — past the headlands —
Into deep Eternity —

Bred as we, among the mountains,
Can the sailor understand
The divine intoxication
Of the first league out from land?

歓喜とは外へ出ること
陸にある魂が海へと
家々を背に—
岬を背に—
深く限りない場所へと

私たちのように山に囲まれて育ったなら
船乗りにも分かるだろうか
陸地から海へ漕ぎ出したときの
あの常ならぬ興奮が


実はこの詩は以前から気になっていて、
訳そうと思っていたのですが、
川崎から信濃へ行くことが決まって、
それならタイミングとして出発の日の前後に訳そうと思い直してとっておいたのです。

けっきょく長野に到着してから2週間ほど経ち、ようやく訳すことができました。

この詩の陸と海はまず、そのまま情景描写として読めます。

Past the houses — past the headlands —

ここで加速して、

Into deep Eternity —

大海原がひらける—

僕はそんな風に映像でイメージしました。

ところで僕がこの詩を、引っ越しをする時の感覚と重ねていたように、
住み慣れた場所(陸)を離れて未知の世界(海)に飛び込む、こととして読むこともできそうです。

その場合、詩の後半の内容がリアルです。

誰かにとっての海は、そこに住む人にとっては陸のようなものかもしれない。

僕が前に川崎から会津若松に引っ越したとき、
そこに元々いた人たちはよく、こんな何もないところによく来たね、などと冗談まじりに話しかけてくれたものでした。

僕からすれば、

空気や食べ物はおいしく、
自然豊かで、
町には歴史があって、
素敵なお店もたくさんあって、
親切な人がたくさんいて……

何もないなんてとんでもない。

では皆さんはどこに行きたいのかと訊ねると、
僕の元いた川崎や東京がいいと言う人も多く、
なんだかおかしな感じがしました。

あの時の会津は、川崎から「出てきた」僕が感じた会津だからこそ、
美しさにより磨きがかかっていたのでしょう。

会津の人は、会津に「出ていく」ことがない。だから会津の人の会津の感じ方はむしろ、僕が川崎を感じるときのそれにきっと近かったのです。

だから、

僕のように、都会の建物に囲まれて育ったなら—
会津の人たちにも分かるでしょう。

会津の人たちのように、山に囲まれて育ったなら—
僕にも分かるでしょう。

その興奮は、
自分の世界から外へ出たときのあの高揚は、
きっと同じだから。


遠くまで来たと思えば思うほど
一粒の水の輝きに魅せられて
静かに世界と瞳を合わせて
綺麗な秘密をもう一つ
ほどきに行く

Kalafina『into the world』

『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR

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