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職業、プロ主婦です〜映画『Martha』を観て①

ドラマ・映画好きなキャリアコンサルタント xyzです。
今話題のNetflixオリジナルのドキュメンタリー映画『マーサ』を観ました。
概要はこちらからどうぞ^^

原題も『Martha』なので邦題そのままです。まぁ他につけようもないですが……。
アメリカの実業家マーサ・スチュワート氏本人が出演するドキュメンタリー映画です。


マーサって?

マーサ・スチュワート。
彼女はライフスタイル界のパイオニアであり大御所。いわゆる「カリスマ主婦」としての地位を確立した人です。

元祖カリスマ主婦です!

裕福な夫を持つ家庭の主婦から実業家へと華麗なる転身を遂げた人です。

憧れの人

実はわたし、昔々彼女に憧れていたことがありまして……『Martha Stuwart LIVING』や『good things』「Cook Book』などなど、彼女の雑誌や本を取り寄せては熟読していたファンでした。

good thingsは「すてきなこと」ってニュアンス

この本、まだ手元にあります…!捨てられない…!!

雑誌の表紙にはいつもマーサの姿が

料理、テーブルセッティングからDIY、園芸まで、ライフスタイル全般を網羅する本でした。別冊でウェディング、育児の本も。

彼女の雑誌は、写真ページが本当に本当に本当に素敵でセンスが良くて、本文そっちのけで(え)写真ページを見ていました。美味しそうな料理の数々や洗練されたテーブルセッティング、ホームパーティの様子、おもてなしのアイディア、インテリアの細部に至るまで……食い入るように、舐め回すように見ていました。凝視し過ぎて、ページに穴が空いてたかも(嘘ですw)
今改めて見返してみても、古臭くない!というか、マーサが好きだったあの頃の自分のことが懐かしい!

今では立派な1ジャンルとして確立された感のある【ライフスタイル】、多くの本が出版され、最近ではInstagramやblogなどの媒体で一般人が自分の日々の素敵な暮らしを公開したりしていますが、当時はマーサのようなセンスのいい本や情報発信ってほとんどなかったんですよ……。SNSも今ほど発達していなかった時代でしたし。

「カリスマ主婦」マーサの存在は日本にもかなりの影響を残したのではないでしょうか。
日本のファッション雑誌の読モ(読者モデル)文化との親和性も高く、やがて【カリスマ主婦のライフスタイルを知りたい】という人々の好奇心をかきたてるような存在が続々と登場します。

和製マーサ・スチュワート達

たとえば、真っ先に思いつくのは、栗原はるみさん、藤野真紀子さん(彼女今どうしているんでしょうね)……お手軽な言い方をすると【和製マーサ・スチュワート】路線の先駆け。


栗原はるみ氏


藤野真紀子氏

最近だとタサン志麻さんや行正り香さんにマーサ味を感じてます。タサン志麻さんはフランスの料理学校仕込みのフレンチを簡単に日本風にアレンジ。東京を離れ地方に移住して、広大な庭や畑に囲まれた里山の古民家を買って手直ししながら住んでいるそうです。おしゃれというよりはナチュラル系

タサン志麻氏

行正り香さんは広告代理店のCMプロデューサーとして活躍しながら料理本を出版、働く女性に人気の料理研究家ですが、この料理本にやたら登場するのが彼女の家族(おちゃめな母・ヨシ子、ふたりの娘達)やペットのインコの話、近所のおばちゃんたち、高校時代留学したときにお世話になったホストファミリーたちとの交流など。都会の意識高い系

行正り香氏

マーサ・スチュワート的なものが日本に伝播する際に【ちょっと頑張れば手が届きそうな、庶民派テイストの丁寧な暮らし】路線に行ったのが栗原はるみさん、【夫の転勤に帯同して通算6年の海外生活、帰国後はサロンを主宰するゴージャスマダム】路線に行ったのが藤野真紀子さん、でしょうか。(藤野さんは後に衆議院議員に立候補して、過去に官舎の自宅アパートでお菓子教室のサロンを始めたことやら彼女の自慢話風武勇伝エッセイの内容やらなにやらで後々世間からツッコまれることになるのですが……。)
タサン志麻さんは「家政婦志麻さん」として、手際の良い仕事ぶりを見せるだけではなく【外国人の夫と子供達とで里山での静かな暮らしを送る田舎暮らしセレブ】路線、行正り香さんは【おしゃれな時短レシピで家事や育児も余裕を持って楽しむ、やり手バリキャリワーママ】路線、と微妙に住み分け。

料理や家事のtipの他に、彼女達自身の洗練された生活やセンス、ライフヒストリー、そして家族を積極的に見せていくスタイルです。

「マーサ以前」「マーサ以降」

わたしの個人的な意見にすぎませんが、料理本の歴史は「マーサ以前」「マーサ以降」に大別されるのではないかと思っています。それほどまでに、マーサの存在はエポックメイキングでした。

これまでの料理本はレシピや料理が主役、料理研究家は黒子的存在でしたが、彼女達は料理と同じ位(いやそれ以上に)彼女達自身が主役!ともすると、肝心の料理よりも彼女達の顔や家の様子の方が大きく映っている写真も。それこそパントリー(キッチンの収納スペース)や納戸の中まで、美しく整然とした様子が公開され……それはまるで一枚の絵のよう←大袈裟
優雅な暮らしぶりやファッション、持ち物、独自の育児論や人生観なども披露しながら【豊かな、素敵なライフスタイルを提案する】という立ち位置。

またまた超個人的な意見ですが、栗原はるみさんのご主人(故・栗原玲児氏)、絶対奥さまを日本のマーサ・スチュワートとして売り込もうと画策したんだろうな…と想像しています。
そして、栗原さんの季刊雑誌『すてきレシピ』というタイトルも、マーサのベストセラー本『good things』(It's a good
thlng! で、すてき(なこと)ね、という意味。マーサの口癖)にインスパイアされて付けたんじゃないかとかなり真剣に思っていますw

職業: プロ主婦

大学時代に知り合った裕福な家庭出身のボーイフレンドと在学中に結婚、ほどなく子が生まれ、若くして育児に専念していたマーサ。でも育児と家事だけの生活に満足していておらずフラストレーションを募らせていた彼女の様子が、本人や家族、友人、知人などの証言で語られます。一介の主婦にはおさまらないだろう、きっと何者かになるはず、と周囲の人々にも思われていたマーサ(すごいな……)。
マーサは心の内で野心を燻らせつつ、やがて自宅キッチンを使ってケータリングサービスを始めます。
初めは夫の会社の出版記念パーティーの企画・運営から。目新しい、気の利いた演出、美味しい料理、そしてマーサ自身の美貌も評判となり、スモールビジネスだったケータリングから、彼女の名前を冠にした雑誌(『Martha Stuwart LIVING』『Martha Stewart Wedding』)や料理本の出版、やがてTVの帯番組を持つようにまでなり、カリスマ主婦として全米で知名度を上げ大人気に!ついにはMartha's Empire(マーサ帝国)と呼ばれるような、メディアミックス企業「マーサ・スチュワートリビング オムニメディア(以下MSLOと略す)」を設立、99年にニューヨーク証券取引所に上場を果たし、アメリカで(自力で)億万長者になった初めての女性実業家、と自他共に認めるビッグな存在になります。
「主婦であり母であり妻であり」という家庭的なアイデンティティを最大限にアピールし、自分自身をブランド化したマーサ。
実際は、家庭的な女性というよりも「主婦」という肩書きの、やり手ビジネスパーソン。「主婦力」「主婦であること」を活かして稼ぐ、そうプロ主婦
プロ彼女ならぬ、プロ主婦。

毀誉褒貶の人生

順風満帆、我が世の春、とばかりに大変な栄華を極めた彼女でしたが、驕れるマーサ久しからず。好事魔多し。
株のインサイダー取引疑惑で逮捕、起訴、有罪評決(実刑)からの刑務所での150日間の禁錮刑&罰金3万ドル、刑期を務めて出所……からの復活
と、あっさり書いてしまいましたが、この数行と3点リーダの間に彼女がどれだけの苦渋と辛酸をなめたことでしょうか。

映画『Martha』より近影

ちなみに、現在83歳の彼女、今も元気で活躍してます!!

Perfectly perfect

マーサは自他共に認める完璧主義者だそうで、その気質は実父譲りだとマーサは回想しています。この映画のインタビュー中でもマーサは【perfect】【perfection】という単語をよく使っていました。【 perfectly perfect】とすら言ってたようなw
完璧な完璧、【完全無欠】というところでしょうか。
完璧を目指す彼女は、自分に厳しいだけではなく他人にもかなり厳しかったようです。プロとしては当然の姿勢、もし同じことを男性がしていたら(言っていたら)受け入れられていたかもしれないことも、マーサは「キツい女だ」などと言われてしまう……。彼女の周囲の人々も厳しいボスに対してストレスと鬱憤を溜めていたのでしょうね……今で言うパワハラ的な圧を感じていたスタッフも少なくなさそうだな、と想像。(あくまでわたしの想像にすぎませんので悪しからず)
「全米の主婦の憧れの優雅なマダム」から「守銭奴の意地悪女実業家」へとイメージは激変し、彼女の評判は大暴落。

インサイダー疑惑の裁判時には、長く友人関係にあり信頼していた側近の女性にも裏切られ、さすがのマーサも相当傷ついた様子でした。どんなに辛く悲しい思いをしても、裁判やマスコミ報道陣の前では涙を見せない気丈なマーサでしたが、刑期を終えて会社に戻ってきたマーサは彼女を待っていた多くの社員達の前で挨拶した後、人目も憚らず泣いていました。
その映像が流れた時、わたしも思わずもらい泣き……pq

刑務所での日々を経て、現在80代のマーサはperfectly perfectをやめて、いい意味で肩の力を抜いて活動をしています。
世間はそんな彼女を「円くなった」「旬の過ぎた」元・人気者と言うのでしょうか。
いえいえ、彼女は今でも十分エッジの効いた、現役インフルエンサー……と思うのは昔憧れた人への贔屓目がかなり入っているかもしれません。

この映画について(というかマーサ自身について)は、まだまだ書きたいことがたくさん!

マーサのファーストキャリアは?
彼女の仕事以外のキャリアはどんなだったの?
なぜマーサは世間から一斉に憎まれだしたの?
刑務所での5ヶ月間でマーサがしたこととは?←これが実にマーサらしくて、本当にすき!リスペクト!

次回は「億女はつらいよ」と題して一代で財を築いた億万長者マーサの栄光と苦悩について書こうと思います。

最後まで読んでくださりありがとうございました^^