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心の作文

「どうだった?」
「上手くいった。」

今週号漫画の週刊誌を
上着の中から取り出した。

「おじさん、この本のつづきを
探しているんだけど、どこに置いてあるの。」
最新号のチラシを見せながら
店主を誘導する作戦であった。
「どれどれ、ああこの本か。
確か向こうの棚の上の方だったかな?」
「こっちのほう?」
「わからないよちょっと見てくんない?」
と声をかけた。
「ちょと待って。」
そう言って店主は本を探しに
声のする方に移動した。
もう一人はそのタイミングを見て、
レジの横に積んである
人気漫画の週刊誌を素早く上着
に隠し、店を出た。

二人は色々な手を使って
新しい週刊漫画を毎週手に入れて
自分たちの秘密基地に持ち帰り
交代で読んで楽しんでいた。
ただ不思議な事に
その本をとても丁寧に扱って
折り曲げたり汚したりは
決してしなかった。

彼らは危険を冒しても
必ず読んだ後は元の所に返していた。

賢いようで子供のすることなので
店主はずいぶん前から気付いていた。
いずれ注意をしようと思っていたが
二人の服装や様子から
ある程度の事は察していたので
大目に見ていた。

そんなある日
二人を連れて母親が店にやってきた。
「申し訳ございません。
うちの子供たちがこちらのお店の本を
万引きしていました。
ずいぶん前からしていたようです。
本当に申し訳ございませんでした。」
そう言って、
深々と頭を下げて謝ってきた。
「今更ではございますが、
弁償の方いかほどさせて頂いたら
よろしいでしょうか?」
母親は清潔な身なりをしていたが
そう裕福にも見えない。
二人は兄弟で
小学校の5年生と4年生だった。

「実はね、
その事は前から知っていましたよ。
一度注意をしようと思っていましたが
盗んだ本はきれいな状態で
必ず返してくるし
なかなかすばしっこくて、
現場を押さえられなかったしね。
毎回
独創的なアイデアを使うので
こちらも興味があってね。
ついついね言いそびれていました。
いつまでも好きにさせていた
私の方にも
落ち度があるので
そう言う意味では、
こちらも謝らないといけない。」
「そうおしゃっていただいても
万引きは万引きです。
この子たちの為にも
曖昧には出来ません。」
母親はきっぱりと言った。
「良くない事をしていた償いとして
時間のある時で良いので、二人に
しばらくうちの店の手伝いを
させると言うのはどうでしょう?」
「ご主人がそうおっしゃて
頂けるなら、そうしてください。
二人とも。まずちゃんと謝りなさい」
そう言って二人を前に押し出した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
二人はそう言って泣きながら頭を下げた。

この様な流れで二人は
学校帰りにこの本屋により
店の掃除や、本の片付け、
整理などを手伝うようになった。
ご褒美に漫画本を読ませてもらったりした。

毎日学校帰りに、「ただいま」
と言ってやって来る。
店主夫婦には子供がいなかったので
まるで実の子供たちのようで
毎日に、変化のある楽しい生活になった。

二人とそれとなく話しているうちに
家庭の事情も分かってきた。
父親が亡くなっていて
母親が生計を立てている事。
母親が返ってくるまで
二人で待っている時間がある事
二人とも漫画以外の本にも興味が出て
読書が好きな事
素直な良い子たちだった。

母親も仕事帰りに本屋により
二人を連れて帰るようになっていた。
残業で少し遅くなる時も、今までの様な
心配がなくなってとても
感謝してると言っていた。
いつの間にか家族ぐるみの
付き合いになっていた。
店主の妻は、一度母親が遅くなる時に
一緒に夕食を食べようかと誘ったが
二人とも応じなかった。
母親が頑張っているのに
先にご飯など食べられない
そんな気持ちが伝わってきたので
その後は、誘うのは止めた。

上の子が6年生になったころ
母親が入院した。
最初は慢性疲労が原因だと思っていたが
そうではなく、
すぐに帰らぬ人になってしまった。
二人の受けたショックは子供には
受け止められないぐらい大きいものだった。
親戚が集まり
残された子供たちの今後について
話し合いが何度も持たれたようだが
引き受け手が現れず
児童施設に預ける話が進んでいた。

あまりにも不憫で、店主と妻は
思い切って二人に話してみることにした。
「どうだろ、二人ともおじさん所の
子供にならないか?」
二人は下を向いて
涙を流しながらうなずいた。
店主と妻はそれ以上は言わず
二人を抱きしめた。

下の子が中学生の3年生の時
作文コンクールで最優秀賞を受賞した。

その表題は「万引き」だった。
自分たち兄弟は
子供の頃、
漫画本を万引きした事があった。
小遣いが貰えない
家庭環境だったので
読んだ後に返す事を
言い訳にして
万引きを始めた。
最初はドキドキしたが、
そのうち
上手くやる方法を
いくつも考えだして
成功していると思っていた。
二人ともうまくいっている事に
有頂天になっていた。
ある晩、
返す前の漫画本を母親に見つかった。
問い詰められて、全てを白状した。
母親は、顔が真っ青になるくらい
ショックを受けていた。
もうこれは、
すごく怒られると感ねんしたが
そうでは無かった。
僕たち兄弟に謝り始めた
「本も買ってあげられなくてごめんね。
本当にごめん。」
泣きながら何度も謝ってくれた。
その言葉は、どんな叱り方よりも
心に刺さった。
僕たちは、こんなに一生懸命頑張ってくれる
かあさんを苦しめていると
大泣きをしてしまった。
次の日、
本屋さんに母親と一緒に謝りに行った。

警察に捕まるのではないかと
すごく怖かった。
しかし本屋のおじさんも、怒らなかった。
逆に本屋さんの手伝いをする事を条件に
僕たちに好きなだけ本を読ませてくれた。
今思うとそれは
本を読んでもっと心の成長させようという
やさしい意図だと思う。
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色々な事情があり
その本屋さんのおじさんとおばさんが
今は、僕たちの
父と母になってくれている。

人間は、時には一人ぼっちと感じる
時もあるが、本当は自分の周りにいる
大勢の人と繋がっている。
自分たちの行動が自分たちだけでなく
愛している人まで時には悲しませる。
それが、どれほどつらい事か
自分だけが苦しんでいると思って
つらい気持ちでいる
日本中の子供たちに
知ってもらいたい。
色々な悩みで間違った方向に
行こうとしている
子供たちに
君たちの周りには、
いくらでも助けてくれる人達がいる。
いやな事ばかりじゃない。
まず自分の心を開く事から始めて欲しい。

確かこのような作文だった。

兄弟はいつの間にか
この「万引き」と言う重い課題から
立派に卒業していた。















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