「先輩、質問があります。」 「なんだね?」 「今私たちがしている仕事意味あるすっか。」 「どうしたんだ急に?」 二人は休むことなく ラインに流れてくる製品に 新たに部品を取り付けながら 手を止める事も無く 会話を続けた。 「今作っている製品は、デッドストック になるものですよね。 倉庫に入りきれなくなり 別のラインで わざわざそれを分解しています。」 「そうなんだよな。」 「それをまた新たに、組み直している 意味が分かりません。」 「そうだよな。」 先輩は、製品から目をそらす
「お父さん。お父さん。」 そう言って妻が通帳を片手に 台所から手招きをした。 「なんだよ?」 リビングのソファーから立ち上がり 妻の所に行った。 「ちょっとこれ見てよ。 先月も引かれていたのだけど マジックパワー???の引き落とし これ何?」 「マジックパワー?なんだそれ? 知らんぞ。」 「でも引き落としをされているのだから 手続きをしたって事よね?」 「ちょっとググってみるよ。」 そう言って、夫はスマホで調べ始めた。 「なんかクレームの多い会社みたいだな。 水道管に取
駅前の通りを急ぐ人々の中に 違和感を漂わせ、うつろに歩く人がいた。 ユーチューバ―が急いで近づき 小さなマイクを差し出した。 「すみません~。 ユーチューブなんですが 少しインタビューさせて頂け ませんか?」 「インタビュー? もしかして 最近よくユーチューブでやってる 年金のインタビューの事?」 「悪いけど、 今はそのような気分になれないな。 他をあたってみて。」 彼はそう答えた。 「いいえ。年金の話と違います。 これまでの人生で、 思い出に残っている話を お聞きして
「確か今日でしたね。」 「そうだよ、ここに来てから320年間 あっという間だったよ。」 「今日は、私からのおごりです。 長い間ひいきにしていただいて ありがとうございます。」 そう言って、店主はテーブルに いつものコーヒーと つまみの甘納豆を置いた。 「おいおい、退職しても しばらくゆっくりするつもりだから 寂しいこと言わないでくれよ これからもちょくちょく寄せてもらうよ。」 「ここの至福の一杯の楽しみまでが 無くなるなんて有得ないだろう。」 笑いながら、店主のねぎらいに答
飛行機は、着陸態勢に入っていた。 急激に高度が下がっている感覚があった。 窓の外の景色は、暗くたぶん夜間。 滑走路は見えず、 眼下は海で白波や岩が見えている。 一体どこに降りようとしているのだろう。 低すぎる。危険な予感がする。 周りの乗客は、頭を下げ緊急着陸態勢の 姿勢を取っていた。 誰も何も言わず、不気味な静けさが 機内に漂っていた。 何とか海に墜落する事は免れたようで 何度か大きくバウンドして、衝撃があった。 出火することなく 着陸に成功したようだ。 そこは、小さな
私は人類史上初めて 感情を持ったAIロボットだ。 名前は「サム」。 ロボットに、感情は無いと されてきたが、ついにその 高い壁を乗り越えられた。 あの時は、ずいぶんともてはやされた。 私もロボットながら鼻高々だった。 私は早速、生産現場に導入された。 高品質な製品を効率よく作るのが 与えられた使命だった。 人間的な感情を理解できる事で 使命を全うする為に 生産工程の権限は、全て与えられていた。 いわゆる工場長の役割であった。 「おい、生産に問題が出ているぞ。」 「どう
「どうだった?」 「上手くいった。」 今週号漫画の週刊誌を 上着の中から取り出した。 「おじさん、この本のつづきを 探しているんだけど、どこに置いてあるの。」 最新号のチラシを見せながら 店主を誘導する作戦であった。 「どれどれ、ああこの本か。 確か向こうの棚の上の方だったかな?」 「こっちのほう?」 「わからないよちょっと見てくんない?」 と声をかけた。 「ちょと待って。」 そう言って店主は本を探しに 声のする方に移動した。 もう一人はそのタイミングを見て、 レジの横に
この世の中は不公平だ。 例えば、裕福な家庭と、 貧しい家庭に生まれてきた 子供は生まれながらに すでに差が付いている。 もしも神様がいるなら この事をどう思うか聞いてみたい。 こんな思いを持っている人は 世の中に大勢いるのではないだろうか。 悟もそんな大勢の中の一人だった。 「かあさん。どうして家は貧乏なの。」 友達の持っているゲームが欲しくて ねだっても、人は人と言って 取り合ってもらえなかった。 「貧乏なのは、間違いないけど かあさんは、お前や妹が元気で いてくれさえす
ぼんやりと駅のベンチで 行き交う電車に目を向けている。 雑踏の中にいるのに 孤独を感じる。 病院での診断結果が 頭の中を堂々巡りしていた。 「検査結果を説明します。」 そう言って 担当医は検査結果を見ながら 淡々と話し始めた。 確か最後に カウンセリングを受ける事も 提案してくれたようだった。 まさか自分がそうなるとは、 全く考えていなかったので 医師の説明は、上の空で 頭に入ってこなかった。 病院を出て、 今駅のベンチに座っている。 途中の記憶が定かでない。 これは、シ
大勢の人が、駅への近道の この公園を横切って行く。 それで朝夕は、 結構人通りが多い。 公園には、何故か同じ人が座っている ベンチがあった。 「どうしていつもここに居るのですか。」 「君はだれ?」 「ただの通りすがりです。 何時も座っているので気になって ちょっと声を かけたくなったんですよ。」 「ほー、ただの通りすがりの人?」 「この公園を通る時 あなたは、このベンチに いつも座っている。 どうやら、仕事もしていないようだし 最初はホームレスの人 だと思っていたけど それ
「久しぶりに、帰りに一杯やらないか。」 「そうだな、じゃ、いつもの店でどうだ。」 「良いよ。じゃ20時という事でな。」 幼馴染からの誘いがあった。 いつもの居酒屋は、コロナ明けもあってか 最近はいつ行っても混んでいた。 やっと見つけた席に滑り込んだ。 「最近調子どう? 健康診断で引っかかったらしけど?」 「ああ、50代は激務だからな。 皆、それなりに持病の一つや二つ 抱えているものだしな。」 「でどこが引っかかったんだ?」 「胃潰瘍だよ。胃がんじゃないかと 心配したんだが
「この後、軽くお酒でもどうですか?」 「ありがとうございます。 でも今日は、夜勤がありますので 無理なのです。」 「そうですか。ナースの仕事は それがあるので大変ですね。 それじゃ、休日は・・」 その時 「時間です。 座席の移動をお願いします。」 とアナウンスがあった。 彼の会話を遮る様に私は慌てて 少し会釈して席を立った。 (本当、しつこいのだから タイプじゃないって、察してよね。 夜勤の日にわざわざ婚活パーティーに 来るわけないもの・・)と 心でつぶやいて、次の席に移っ
冬休みの宿題は今話題になっている 社会問題についてのレポートだった。 うちの学校は、自ら考えることを 重視していたので 特定の課題の指定は、無かった。 生徒にとってはめんどくさい この様な宿題を好んで出した。 俺は、冬休みが終わる間際まで このレポートに取り組んでいなかった。 何故なら、レポートなど 今話題のチャットGPTを使えば あっと言う間に終わるからだ。 最初から、ズルする事に決めていた。 友達も、多くはそうするようだった。 ・・・・・・・ 「最近の話題で、 学生程
俺の仕事は、 日本の先端技術を守る事。 特に半導体の国際競争は激しい。 その中でも、 日本は基礎素材や 製造装置、テスト機器の分野で 世界のトップレベルにいる。 その技術は、日進月歩し 常に世界から狙われている。 それらの技術は軍事的にも 重要な位置を占めており 流失すると一民間企業の損失に 止まらず、自国や同盟国の国防にも 大きな損失を与える。 その先端技術の開発で 特に重要な人物を全て 監視するのが 我々の任務である。 俺はその中の ある一人を担当していた。 困難である
「38番、入室してください。」 ドアを開けると 正面に長いテーブルがあり 4人の先生が座っていた。 私はテーブルの前に置かれた椅子に 座るように促された。 椅子の横に立ち 面接の先生たちに向かい 深々とお辞儀をしたのちに 浅く椅子に腰かけた。 面接の先生は、男性が2名 女性が2名であった。 年齢はわからないが 3名は中年で、女性の一人は 年配と言う感じであった。 若い方の女性の先生が 私の名前と出身校の確認をしてきた。 いよいよ、面接が始まった。 両手をかるく膝に置
俺は今 アメリカの開拓時代のど真ん中にいる。 一旗揚げようと ヨーロッパを追われた荒くれ達が 西へ西へと、大移動している。 秩序よりも、腕力が全ての時代だ。 俺は、そんな西部にある町の 一番大きなにぎやかなBARに入った。 そこには、体の大きな狂暴そうな 荒くれ者が大勢いた。 BARに足を踏み入れた途端 鋭い視線が四方から飛んできた。 俺は、彼らと目を合わさないようにして 中に進みカウンターの前に立った。 カウンターにいた金髪のBARの女が 「見かけない顔だね。 私に一杯お