そうだ、映画の話をしよう⑦ ‐ラストマイル
立て続けに洋画ばかり紹介していたので今回は邦画の話をしよう。
今秋公開されたばかりでまだ配信はないが、ぜひ見てもらいたい作品である。
タイトル:ラストマイル
公開:2024年
主演:満島ひかり
監督:塚原あゆ子
脚本:野木亜紀子
脚本の野木亜紀子氏は私が絶大な信頼を置いている方である。
邦画、邦ドラマを見ない私でもこの方の脚本ならば……、と手を出すことが多い。
本作とはスピンオフ関係(同時空)にあるドラマ「アンナチュラル」、「MIU404」はリアタイと配信で複数回視聴している。
作中にもドラマの登場人物が出てくるので映画を見る前に履修していただきたい。
さて、ここからは何時の通りネタバレを含むので未視聴の方はお気をつけていただければと思う。
本作の舞台は架空の大手通販サイトの物流センターである。
ブラックフライデーセールを狙った爆破事件にセンターの管理者である舟渡エレナと梨本孔が挑む、というのが大筋だ。
あらすじの時点ですぐにわかるが近年の通販サイトにおける翌日配送、物流の増加、配達、倉庫人員の不足などを皮肉った内容である。
便利なサービスの裏には大変な思いをしている人がいると頭ではわかっていても実際映像にされると強烈だ。
また、本作では関連するドラマシリーズと異なり、民間の登場人物たちが軸になってくる。
(アンナチュラルのUDIラボは民間施設だが警察から事件性のある遺体の検死依頼を受けている。MIU404は警察の機動捜査隊が舞台である)
視点の違いから真相がミスリードされるため最後の瞬間までドキドキさせてくれる。
映画ならではの大規模な演出も加わる(爆発、大量のエキストラなど)ので目を離すスキがない。
見終わったときの感想としては「さいっこうだった!!!」の一言に尽きる。
私が脚本と主演を好きだというのもあるかもしれないが、冒頭のロッカーの落書きが山崎(中村倫也)のシーンと絡んでくるところは興奮して語彙力を失った。伏線回収、ミスリード、全部がすごい、としか言いようがない。
主演は最初から最後まで最高に美しかった。スッと冷静になるときと無邪気な顔とどれもが美しい。
もともと好きだったアンナチュラル、MIUのメンバーも出てきてずっとテンションが上がりっぱなしだった。
内容については、先に述べたように現代の物流増加に対する強烈な皮肉である。
私自身は翌日配送にそれほどこだわりはないものの、翌日来るならそれでいいや、くらいの感覚だった。その裏側で何が起こっているのかは何となく把握はしていても現実味は薄かったと思う。
実際に以前の仕事(メーカー勤務)で物流の人手不足からの値上げも経験していたはずなのに、倉庫で働く人々、配送業者の低賃金問題などを目の当たりにすると大きな衝撃を受けた。
映画なので誇張された部分もあるだろうし、逆にきれいに整えられた部分もあるだろう。それでもこれが通販業界、宅配業者の現実かと思うとぞっとする。同時にこの問題はすでに誰かひとり、どこか一企業で解決できる枠を超えてしまったのだと感じた。
業界と社会が一丸にならねば現実はこのままなのだろう。
最後の最後までそんな皮肉が詰まっていた。
おすすめしたい理由としてはやはりそのストーリーの巧みさである。
一見関係のないシーンのすべてがラストに収束する。2時間どっぷり、緊迫感を味わえる作品だ。
ところで、お急ぎ便があるなら時間のある時でいいよ便も作ってほしいものである。