RYOUTA

読書好きのINFPです

RYOUTA

読書好きのINFPです

最近の記事

[ショートショート]あの世

古代文字を書き連ねた魔法陣。燭台に乗せた6つの蝋燭は、陣を囲うように等間隔に置いた。微かに風が吹き、炎が揺らめく。窓なんて地下室のこの部屋にあるわけはない。風は部屋の中央から、魔法陣の中に影が浮かび上がる。 つり上がった目、尖った耳、低い鼻に、黒よりも紫と表現した方が適切な肌の色。 「儂を呼び出したのは貴様か?小僧」 悪魔の召喚。目的はただ一つ。 「母を…死んだ母を蘇らせろ」 悪魔がぐにゃりとゆがんだ笑顔を見せる。 「小僧、相応の代価を覚悟の上なのだな?」 自分に言い聞かせる

    • [ショートショート]婚姻届けを出したのは

      遅くまで本を読み耽っていた。窓から入る朝陽に照らされて、自分が座ったまま眠ってしまっていたことに気付く。あまり良い目覚めではない。寒さに体を震わせながら、上着を取って席を立った。 お湯を沸かすのにケトルのスイッチを入れる。中に水は入っていただろうか。後から気付いて、ケトルを持ち上げて水を汲む。危うく空焚きするところだった。 ドリップにしようか一瞬迷うけど、面倒だからいいや、とインスタントコーヒーの瓶とコップを取り出して、休日の日曜日じゃなかったら遅刻確定の時間だったな、と時計

      • 10月の読書日記

        先月からの続きで高瀬隼子さんの本を一冊、それと村上春樹を一冊、あとは知人からのおススメと興味を持ったクトゥルフ神話からの一冊ずつで計四冊を読了。 うるさいこの音の全部/高瀬隼子 「おいしいごはんが食べられますように」を読んだ勢いそのままに読み進めた同じ作者さんの作品。 だけど感想を上手く書ける気がしない。誓って、決してつまらなかったわけではない。 本当に自分はこの物語を読めたのだろうか、と不安になってしまう読後感と言えばいいのだろうか。 「おいしいごはんが食べられますよう

        • [日記]悪役

          期日前投票に行ってきた。 政治家が怠慢だからこの社会は良くないものになっているんだ、という風潮を見かける。想い通りにならない現実を、税金の無駄遣いをしているあいつらのせいだ、という風に。でも現実は彼らは選挙で選ばれた人たちで、誰が選んだかというと私達の投票によって選ばれた人たちのはずなのだ。だから彼らが失敗をしたとしたら、「あんな奴に投票しなければよかった」「あんな奴がいる党に投票した私が悪かった」という反応になってもいいはずだ。 さて、令和3年の10月に行われた衆議院議

        [ショートショート]あの世

        マガジン

        • 読書日記
          3本
        • 小説
          2本

        記事

          9月の読書日記

          今月も読んだ本を紹介していく。 本屋大賞作品を中心に以前から読みたかった作品を加えて計10冊ほどを読了。 本屋大賞の本かがみの孤城/辻村深月 2018年大賞作品。 不思議なお城に集められた少年少女達と狼のお面を被った”オオカミ様”の物語。 気づいたら読み終えていた、という爽快感があって作品全体のテンポの良さが際立っていた印象。 いくつもの謎と同じくらいに散りばめられたヒントやミスリードが程よく推理を促し、ああでもないこうでもない、と読む手を休ませてくれない。 かと思えば不

          9月の読書日記

          8月の読書日記

          かか/宇佐見りん 推し、燃ゆ/宇佐見りん くるまの娘/宇佐見りん 訂正可能性の哲学/東浩紀 気になっていた「推し、燃ゆ」を読んだところから始まり、「かか」「くるまの娘」と続けて一気読みしてしまった。 これでもかと現実を現実のままに描き切る筆致。 遅れ、重たさ、閉塞感。 それでいて絶望しきれない様を描き切る、血のかよった人間臭さを持った物語。 読み切るのに体力を要するタイプの小説であると言わざるを得ないが、それと同時に「読まなくてはいけない」「より多くの人に読んで欲しい」そう

          8月の読書日記