4月読書記録

大学に入学してからめっきり本を読まなくなっていたのだが、最近はたくさん本を読んでいる。記憶が新しいうちに、読んだ本とその感想をまとめておこうと思う。ここで言う書は小説を中心に、漫画、新書なども含む。

① 宇佐見りん「かか」 河出文庫

「推し、燃ゆ」は芥川賞受賞時に読んでいたのだが、デビュー作「かか」は認知していながらも億劫がって読んでいなかった。
簡単に言うと、「生まれてきちゃってごめん」を地で行く話で、女性が子宮という子供を産むための器官をもつこと、それをやぶって、すなわち処女を奪って子供が産まれてくることの罪と責任に向き合った作品だと感じた。かかがおかしくなってしまったことへ重い責任を抱えてしまったうーちゃんがかかを生み直そうとする描写に、鳥肌がとまらなかった。Twitterの鍵垢を持ってオタクをしている女の子特有のバランスの悪さや家庭環境の悪さを、鋭く表現しているのも素晴らしかった。

② 綿矢りさ「夢を与える」 河出文庫

綿矢りさの芥川賞受賞後第一作。「インストール」「蹴りたい背中」と話題作を立て続けに発表した彼女が、スランプに苦しんだ末に書いた作品。
美しい少女、夕子の芸能界における栄光から失墜までを描いており、綿矢作品のなかでもかなり賛否が分かれている。
周りの大人たちに大人であることを強要されたものの、同年代の人との交流を持つ機会がほとんどなく、終始幼く脆い内面を持つ夕子の内面を三人称で描き出しながら物語が進むので、登場人物よりも読者のほうが彼女の言動に対して自覚的である。「インストール」「蹴りたい背中」は一人称小説で、主人公が達観したニヒリストであり、自らの行動に対して自己意識を過剰に働かせているが、夕子は自分がどうしてその行動をとっているのか無自覚なまま行動する。語りは冴えているのに、心と体は本能的にのめり込むアンバランスさが素晴らしかった。そしてラストの多摩に会いに行こうとするところの、描写の残酷さ。賛否があるのは理解できるが私としては圧倒的賛であり、かつこの作品がのちの綿矢作品に大きすぎる影響をもたらしているのは明らかだ。「ひらいて」の愛なんかは、「蹴りたい背中」ハツのニヒルな側面と夕子の情熱的な側面を併せ持つ超魅力的なヒロインであると思う。

③ 川上未映子「乳と卵」 文春文庫

女性という性において、もっとも特徴的な身体的特徴である「乳」と、それを取り巻く母性について、豊胸手術に執心する母としゃべらない娘、を通して描かれている。母と娘、生まれてくることの罪についての話という点では「かか」と共通しているが、あたたかいつながりがきちんと存在している分、「乳と卵」には救いがある。見知らぬ女性2人が乳についてレスバするシーンと、最後のたまごをぶつけるシーンがとても好きだった。
表題作はもちろんだが同時収録の「あなたたちの恋愛は瀕死」も素晴らしく、生きているだけで性的にみられるとされる女性の、性的にみられない苦しみ、を描いている。特別かわいい子がナンパされるわけではない、飲み会でお持ち帰りされるわけではない、されやすい子はされやすい子で悩みがあるのだろうが、されない方だってされてみたいときもある。

④ 井戸川射子「この世の喜びよ」 講談社

芥川賞受賞をきっかけに買っていたが、まだ手を付けていなかった作品。「ここはとても速い川」を3月に読んでおりひどく感動したのだが、「この世の喜びよ」でさらに泣いた。
このショッピングモールを知っている、と思った。この家族のことも、少女のことも、よく知っている。あなたは年齢も出自も私ではないのに、悲しくなるほど私だった。いまの実家じゃなくて、保育園のときに2、3年ほど住んでいた団地のアパートの、大きい窓がある部屋で、日が差していたときのあのまどろみにずっと包まれているような、そんな小説だった。娘ふたりと名古屋旅行したくだりでボロ泣きした。「ここはとても速い川」読み返したくなったのに、文庫本どっか行った。どこ行ったんだ。

⑤ コナリミサト「凪のお暇 ①~⑩」 秋田書店

調布のブックオフで10巻セット1500円だったので購入。ドラマはみていたのだが、漫画版はほぼ未読で、いろいろ思い出しながら読んでいた。
コナリさんは絵柄がおしゃれで、写実的じゃないのに食べ物が全部美味しそうなのがすごい。三角関係の恋愛話よりも、毒親連鎖断ち切り話としての側面の方が大きい気がする。アンバランスに育った凪と慎二が、それぞれのアンバランスさゆえに決して交わらないところや、ゴンの本名のくだり、凪への恋愛感情など、ドラマで描き切れていなかった部分がめちゃくちゃよかった。ドラマでは慎二を悪役に仕立てて一貫した被害者だった市川ちゃんの無邪気ゆえ邪悪な部分が描かれていたのもよかった。休載つらいよ(泣)

⑥ 宇佐見りん「くるまの娘」 河出書房新社

「かか」を読んだのでこれも読まなきゃだめだ!ということで読んだ。同じ親子ものであるが、「かか」が「生まれてきちゃってごめん!」なのに対し、「くるまの娘」は「生きてきちゃってごめん!」なのがさらにつらかった。
毒親というものは連鎖する、なぜなら幼少期に幼児的身勝手さをもつ毒親の元で育ち、大人にならざるを得なかった子供たちは、自分が親になると幼児退行してしまい、子供に大人になることを強いるからだ、という構図をきわめて鋭くグロテスクに描いており、非常に苦しい。お父さんを責めるべきなのかもしれないが、そのある種の救いも最後の方で断ち切られる。救いがないので、やはり子供なんて産むべきではない。

⑦ 綿矢りさ「インストール」 河出文庫

再読。17歳の時に書いた、綿矢りさのデビュー作。3年だかそこらぶりに読んだので、非常に新鮮だった。
周囲になじめずつまづいた主人公が、絶望のポーズをとらずに、粛々ととんでもないことをしているのが良い。極端にリアリストでニヒリストで、風俗チャットもそれとなくこなしてみせるのに、その実母親には向き合えない朝子のいじらしさが、女子高生という生き物を端的に示していると思う。綿矢りさは女性のかわいさとずるさといじらしさを描くのがうますぎる。そして大人の大人性(と、そのずるさ)を描き出したラストも好き。インタビューで100歳まで書き続けたい、と言っていたので、私も83歳まで、綿矢りさ作品を読み続ける胆力をつけたい。

⑧ 槙ようこ「愛してるぜベイベ★★ ①~⑦(完)」 集英社

小学生のとき、姉が買ってきた「勝利の悪魔」を読んで以降槙ようこさんのことが非常に好きだったのだが、当時はお金が無く、他の漫画など買えなかった。しかし今は大人、大人ということはなんでも買えちゃう!ということで、深夜テンションで大人買い。ついでに勝利の悪魔と14Rと世界はきみを救う!も。
まず絵が素敵、20年前の作品なのに古臭さがない。結平がずるいくらいかっこいい。絵によってキャラクターの個性に説得力が生まれており、それぞれがどんどんいとおしくなる。
ゆずゆは素晴らしくキュートで、ちっちゃいのにメインヒロインとしての格を失わず、お飾りになっていないのがすごい。心ちゃんも噛ませ役になるわけでもなく、きちんと愛着をもって描かれているのが伝わってきて、しあわせな話だった。

⑨ 浅野いにお「うみべの女の子」 太田出版

ネトフリで映画版みれるようになってたんだけど、みるのめんどくさかったから漫画買った。スカトロのくだりはめちゃくちゃ良かったが、辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ」のセックスエディションというかんじだった。

⑩ 遠野遥「破局」 河出文庫

爆笑しながら読んだ。インタビューなども合わせて読んだが、のらりくらりとしていて、この作者がこの話を書いたことへの説得力がすごかった。
主人公がめちゃくちゃサイコパスみたいなんだけど、全員がもっているマッチョイズム要素を誇張して描いているだけなので、彼を怖い/面白いと思うことそれ自体が読者の持つマッチョイズムへのカウンター攻撃になっている。「私は私の声が弾んでいることを不思議に思い、少し考えてから肉を食っているためだとわかった。」という記述が良すぎて、こういうこと、つまり身体と頭と心がバラバラで、頭で理解するのに先立って心が行動に現れるようなこと、って意外と、本当に意外と、あるよなあと思った。
あと「遠野遥」って名前がめちゃくちゃいい。

⑪ 安部公房「壁」 新潮文庫

めちゃくちゃおもしろかった。真剣に読もうとしても安部公房、頭良すぎてたぶん全然わかんないから、適当に読んだら頭の中に奇っ怪なミュージアムができるような感覚があって、非常に楽しかった。
「S・カルマ氏の犯罪」では、裁判のシーンでたくさんの革命歌がでてくるのだが、いずれも世界観が素晴らしく、とてもゴキゲンな気分になった。「バベルの塔の狸」は存在をうばった狸たちが一同に会している姿が不気味ながらもなんともかわいらしく思えるし、「赤い繭」は星新一のショートショートにも通ずるユーモアがあり、特に壁に絵をかくとそれが出てくる話が好きだった。

⑫ 大江健三郎「セヴンティーン」 新潮文庫(「性的人間」より)

「叫び声」の原作ということで、いつか読まなければと思っていたが、結局終演後になってしまった。
自己意識の強すぎる青年が「右」の鎧を得ることによって安心して生きられるようになる、鎧の種類は違えどもその過程に見覚えがあった。本質としては後述の川上未映子「黄色い家」に近いものがあると思う。
ソープに行くシーンが最高に痛快で面白かった。

⑬ 綿矢りさ「嫌いなら呼ぶなよ」 河出書房新社

尖ったタイトルおよび真っ赤なベースに水色の水玉模様のカバーが素晴らしく、綿矢りさはまず人に本を読みたいと思わせる力が強いなと改めて思った。
短編がぜんぶで4つ、いずれも素晴らしかったのだけれど、YouTuberのファンになりいわゆる厄介オタクと化してしまう拗れた女の子を描いた「神田タ」が特に好きだった。「かんだゆう」と読むのかと思いきや、芥川「蜘蛛の糸」になぞらえて「カンダタ」と読む。色々あって女の子はそのYouTuberのファンを降りてしまうのだけれど、その理由が(自分が招いたものなのに!)自分勝手すぎて、でもその自分勝手さに見覚えがあって、思わず笑ってしまった。書き下ろし「老は害で若も輩」も面白かった。

⑭ 川上未映子「黄色い家」 中央公論新社

「群像」川上未映子特集を読むにあたり、必須だと感じて読んだ。まず、カバーが素晴らしい。そしてカバーを外した装丁も、海外のおしゃれな本みたいでめちゃくちゃ綺麗。世の中に存在する「黄色」のなかでも、いっとう綺麗な黄色が使われている。
初見で読んで、黄美子さんにもらった光を頼りに進んできた花がお金に翻弄され、最終的に黄美子さんを捨ててしまう、しかしその後ふたりは美しい光のもとで再会する、その感動的な一連が素晴らしかったのだが、群像の特集のインタビューや書評を読んで自分の読解の浅さを痛感した。裏側の構造を理解して物語を反芻すると、より黄色が深く心に焼き付く。花は金に目が眩んだというよりも、金を通して得たかった幸せ=光を、ほしがっただけだった。世の中の多くの人が得られるそれを得られなかった花が、レールから滑り落ちてしまう様子は、就活で絶望しているわたしにとって、他人事と思えなかった。

⑮ 村上春樹「風の歌を聴け」 講談社文庫

これが初村上春樹。そもそも男性作家の本を読むこと自体あまりしない+古い本ということもあり、ジェンダー観のあまりの違いに驚いた、というのが正直な感想。直前に川上未映子を読んでいたというのもある。
ニヒルな文体に滲む孤独性みたいなものがすごく素敵で、「かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった」からはじまるクールについてのモノローグが良かった。まだまだ村上春樹を語るには読書量が足りなすぎるので、次はピンボールを読もうと思う。

⑯ 中島岳志・島薗進「愛国と信仰の構造」 集英社新書

ゼミの先生に借りた本。明治維新から最近のネトウヨまで、ナショナリズムと宗教性の構造を比較している。国家全体が不安に陥るとき、「国一体で頑張ろう!」みたいな気持ちが、急進的な右翼運動に走らせる、ということを時代ごとにわかりやすく書いていて、とても勉強になった。
二・二六事件のはなしが面白かったので、より掘り下げて読みたい。

⑰ 綿矢りさ「憤死」 河出文庫

掌篇1本+短編3本。表題作「憤死」が群を抜いて素晴らしく、綿矢りさお得意の「女性が女性に対して抱く屈折した感情」の描き出し方がうまかった。ヤバすぎて逆に尊敬する、逆に好きになっちゃう!みたいなこと、私は少なくともめちゃくちゃにある。
私は男性じゃないので、男性も同じように感じることがあるのかはわからないし、男性が主人公の話は女性が主人公の話に比べて理解するのが難しいと感じることが多いのだけれど、綿矢りさは女性を主人公としつつも「女性だから」と決めつけるようなことはしないのが誠実だよなあと思う。男性が主人公の場合にも、「わからないことは書かない」という姿勢が見て取れ、それは「憤死」以外の短編2作(どちらも男性主人公)にしっかり現れていた。綿谷作品を見たことがない人に1冊勧めるならこれだろうな、と思う。

以上、4月読書記録でした!5月は10冊読めればいいかなという感じなのだが、1冊目の「どくろ杯」が本当に素晴らしかったので、もうかなり満足している。といいつつ、綿矢りさの新作やら古典作品やら、読みたい本も溜まりに溜まっているため、時間をつくってたくさん読もうと思う。

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