ささやかな幸せと切ない人生の物語。映画『小さき麦の花』中国、2022年。
中国西北地域の貧しい農村の中に住む馬有鉄(マー・ヨウティエ)は、両親と兄二人を亡くし、三番目の兄の家に居候。ヨウティエは、貧乏で無口で独身。兄は、もうじき結婚する息子の邪魔にならないように、弟を見合いさせる。相手は障害があり、子供も望めない貴英(クイイン)。同じく家族に厄介払い同然で、お見合いさせられ、結婚します。
お祝いもなく、結婚証明書の写真をとるだけ。村人たちが出稼ぎに行った空き家で、新婚生活を開始する二人。赤の他人に無償で輸血をしてあげるヨウティエ。誠実で、働き者で、無口だけれどやさしいヨウティエ。そんな彼を心配し、一緒に農作業をする中で、クイインにも愛情が芽生えていきます。
いつも家族に殴られていたクイイン。でも、ヨウティエはやさしい。だから、一緒に生活できると思ったという彼女。二人で生活するようになってから、着ているものは同じなのに、クイインの表情はだんだんかわいくなっていきます。
タイトルにもなっている小さな麦の花というのは、麦の粒でお互いに跡をつけて、「いつでも見つけられるように」と願った花のような印のこと。草でロバをつくったり、まるで子供のおままごとみたいです。
経済発展する中国。僻地の貧しい農民が農地を捨てて、南へ出稼ぎに行き、空き家だらけの農村。家を壊せば補助金が出るので、ヨウティエとクイイン夫婦は、何度も追い出されます。それでも、夫婦は誰も恨まず、自分たちで力を合わせてレンガをつくります。
荒涼たる大地から、レンガをつくり、家を作る。畑の麦やとうもろこしや
じゃがいもを育てる。黙々と働き、愛情を重ねていく二人。卵を分けてもらい、ひよこを育て、豚も育てる二人。お互いを大事に慈しみ、貧しいけれど幸せな生活が始まるかと思いきや、病気が原因でクイインは亡くなってしまいます。
せっかくつくった家を壊し、家畜を処分し、ヨウティエは村を出ます。大地で生活し、畑にしばりつけられていたようなヨウティエが、クイインのいない場所に未練は残さないあとでもいうように。
大地に生きる人間の強さが、ドキュメンタリーのように見ごたえがあります。言葉数は少ないけれど、愛情豊かな映画です。そして、世の中の理不尽さとか、やりきれなさを淡々と写し取った映画で、見ているときはホカホカした気持ちになるのに、見終わったあとは余韻がちょっと重いです。
こういう映画が、映画大国の中国で口コミから20億円も興行収入をあげて、その後、なぜか映画館の上映もネット配信から中断されているというわけのわからなさも。とりあえず、映画好きで中国に関心のある方、ロバ好きな人におすすめです。
韓国の『あなた、あの川を渡らないで』や『牛の鈴音』という映画を思い出しました。この作品は高齢のおじいさんとおばあさんが主演のドキュメンタリーですが、なんとなく共通点がある気がします。
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