果てしないチャイニーズ。『もっとさいはての中国』安田峰俊
『さいはての中国』の続編。
おもしろさは、さらにパワーアップしています。
序章 濃厚な「中華コミュニティ」の入り口へ 千葉県山武市
第1章 アフリカのど真ん中に出現した「小中国」 ルワンダ・キガリ
第2章 ”中華鉄道”で味わうサバンナ紀行 ケニア・ナイロビ
第3章 秘密結社チャイニーズ・フリーメンソンを直撃 カナダ・バンクーバー
第4章 中国農村版マッドマックス 広東省掲陽市郊外
第5章 オタク少年、中国一の恐竜博士になる 北京
第6章 民主活動家のアジア潜行2000日
第7章 国際指名手配・郭文貴、かく語りき アメリカ・ニューヨーク
おわりに
全体的にすごく文章が読みやすくなり、取材各地の歴史的説明がうまくなっています。さりげなく交じる自分語りも、アクセントやユーモアになっていて自然。著者のブログ、そしてデビュー作から読んでいる読者としては、ますます楽しみでうれしい内容です。
まず、アフリカ編ではケニアとルワンダという2つの国の違った社会・文化を紹介。
ルワンダは政治は独裁的だけど、汚職などが少ない社会で、治安もよく、人々は真面目。経営者からみると製造業の現場ワーカーにぴったりというように、経済発展していて、アメリカよりも中国をモデルに思う人が多い。かつての虐殺については、有名な「ルワンダのラジオ(ツチ虐殺を呼びかけた過激派のラジオ放送)」に影響されたわけでも、政府中枢からの直接の指令に従って動いたわけでもなく、地元の有力者の言うことをなんとなく聞いて世紀の悲劇を起こしたらしいという近年の研究も参考にしているのも好印象。
一方で、進出している中国は、相手の国の文化には無関心。チャンスがあればやってくるし、チャンスがなければ来ない。なので、対人関係に敬意を求めるルワンダでは中国企業のそういう部分は嫌われる。
一方のケニアは治安が悪く、国立公園に鉄道が通ってしまったり、象牙などの密猟が跡をたたなかったり。中国の鉄道とアフリカの複雑な事情が交錯する。
カナダの秘密結社の話もおもしろい。現地社会にとけこんでいる華僑たちの政治ライフと伝統文化のゆるい感じがなんともいえないいい味を出している。
華南の宗族部落のいざこざも歴史とからめておもしろい読み物だし、なにより恐竜博士の話もいい。というか、一番好き。中国社会のいい部分だけを抽出するとこんな感じになりそう。
あと、民主活動家の第6章は、『「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄』の続編。最近、胡耀邦がらみの本を読んだばかりなので、団派に胡耀邦の衣鉢を継ぐ勢力がいるというのは、ものすごく納得感がある。そして、彼の活動の本筋も。やはり、仕事柄、そして命に関わることもあるから、政治運動やってる人は全てをしゃべってくれるわけじゃない。このあたり、常にチェックする必要があるのはインタビューも史料もいっしょ。
コンパクトだけど、本当に読み応えあっておもしろかった。おすすめです。