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カンバーバッチと猫という最高の組み合わせ。映画『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』イギリス、2021年


タイトルと主演を聞いたときから、ほぼ大体の内容がわかってしまう映画は、見に行く場合と行かない場合があります。『ルイス・ウェイン』はもちろん前者。ポスター見ただけで、絶対家族で見に行くと決めていました。

映画のストーリーは、19世紀末から20世紀初のイギリス。日本でいうと明治時代。動物のイラストレーターとして、新聞や雑誌で重宝されていたルイス・ウェインは、性格的には奇天烈で、社交性や常識に乏しいものの、絵の巧さと速さが売り。父親を早くに亡くし、長男として母と妹4人を食べさせ、上流階級の家庭を守らなければいけない立場にありました。

ところが、時代はイラストから写真へ。早くて安くて正確なメディアとして写真が重宝されるようになり、ルイスは仕事を失っていきます。そんなとき、妹たちの家庭教師としてやってきた10才年上のエイミーと恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚します。そして、彼女との生活や妹たちへの仕送りのために擬人化した猫のイラストや絵本を描くようになります。

犬はペットとして定着していたものの、当時のイギリスの猫は下層民のネズミ捕り係。そんな猫をかわいらしい、ニンゲンの隣人として描くルイス。イラストは大当たりして人気者になり、生活もなんとか回るようになりますが、エイミーの乳がんが発覚し、幸せな結婚生活はたった3年で終わってしまいます。

唯一の理解者だったエイミーを失い、ルイスは精神的な問題が生活に影響するようになっていきます。でも、エイミーの遺言を守って絵を書き続け、猫のイラストはだんだんサイケというか、現代的に変化していきます。絵の才能はあっても、実業家としての能力ゼロで、家庭を切り盛りできないルイス。版権を保持していなかったので、ルイスの本が大人気でも彼には印税が入りませんし、浪費しても止めてくれる人がいません。

借金だらけの貧乏生活。拍車をかけるように妹の一人が統合失調症になり、ルイス自身の精神も徐々に不安定さを増していきます。やがて母、次に妹がインフルエンザで亡くなり、助けてくれる友人も年老いて、ルイスはとうとう貧困者用の精神病棟で暮らさざるを得なくなります。

そんなルイスの実情を知った友人が、彼のファンたちに呼びかけてファンドを立ち上げ、ルイスをよい病院にうつして、環境を改善してくれます。でも、ルイスの心にはエミリーの遺言しかありません。夢と現実、ファンタジーとリアルの境がわからないまま。エミリーと過ごした幸せな時間とその風景だけが彼の宝物なのです。

「どんなに人生がつらくても、世界は美しい」といって、自分の死後も絵を描くことを放棄しないよう遺言したエミリー。

「なぜ、生活がそんなに苦しいのに、あんなに楽しい絵がかけるのか」と驚きながら、「あなたの絵は自分を楽しませてくれたから」とダメなルイスを支えた友人。

映画はコミカルに、ルイスのキテレツな行動とイギリスの階級社会のしんどさを描いてくれます。そして、シリアスな物語をコミカルに演じることができるカンバーバッチの魅力が120%のシナリオ。そのおかげで、悲しさも苦しさも乗り切ることができる「それでも、人生は続く」物語になっています。

ルイスは「絵を描くことでしか、社会とつながることができなかった人」ですが、だから「彼の絵は、多くの人を楽しませる」力があったのか。非常識だったから、社会の壁が大きい時代にも、自分にとって唯一の人を見つけ、幸福な3年を手に入れることができたルイス。

ただ、妹たちからそれば、キテレツな兄のせいで結婚できない人生を送った被害者で、時代の被害者。そして、自分の力では社会に抗えなかった常識的なゆえの弱者。真面目にクラスとバカを見てしまうなんて、人生は本当に複雑です。

邦題:ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ(原題:The Electrical Life of Louis Wain)
監督:ウィル・シャープ
主演:ベネディクト・カンバーバッチ、クレア・フォイほか。
制作:イギリス(2021年)111分

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