専門家のすばらしい解説。『梅蘭芳 世界を虜にした男』加藤徹
大好きな加藤徹さんの本ということで、最初からわくわくして読みました。
読みやすく、でも資料豊富。時代的背景も、京劇の世界の説明もばっちり過不足なく描けるのは、この人の筆あればこそ。映画『梅蘭芳』を見終えた後、立ち寄った近くの書店には文庫本の『梅蘭芳』があったけど、それよりこちらの本を置いておいてほしかったな。
清朝末期から中華民国にかけての京劇界の状況と、そこでの人間模様。梅蘭芳の血筋、そして人間関係。このあたりは映画では表現しにくいけれど、本では詳しい説明があります。それから、彼の才能とブレーンたち。ここでも、影像で表現されていても万人にわかるかというと、やはり予備知識が必要。その点、文章では簡潔に説明することができます。
時代の変化と彼の家庭環境の変化。
映画では、最初の妻は描かれず、二番目の妻が主役でした。そして、加藤さんによれば、もっともありえない別れ方をした恋人。複雑な恋愛と家族関係をきっちりおさえることができるのも書籍ならでは。
さらに複雑なアメリカ公演や日本公演の背景。
この部分は、映画ではほとんど省略されているので、ぜひとも本書で確認しておきたいところ。そして、日本軍による梅蘭芳へのアプローチ。ここも本書で確認しておくと映画をより楽しめる。
最後に映画では全く触れられることのない中華人民共和国での梅蘭芳の苦悩。日本への公演。お墓について。こちらも、文章でしっかり説明されています。映画『梅蘭芳』と合わせて、とても読み応えのある1冊です。