手探りの日中合作。映画『未完の対局』日本・中国、1982年
以前、私が田壮壮監督の『呉清源』に入れあげていたときに先輩から教えてもらった映画。日中国交正常化10周年記念で造られた映画で、文部省選定。こういうイベントで製作する作品は模範的な内容になることが多いので、映画としてのおもしろさはあまり期待していませんでした。
一応、三国連太郎や乙羽伸子、大滝秀治が出ているので、名優さんたちの演技だけは期待しましたが、意外にも圧巻だったのは若き日の小川真由美(特別出演)でした。三国連太郎は全然棋士らしく見えなかったし、大滝秀治の頭山満はないなあ。松坂慶子はこの作品に出演して、また『呉清源』にも出演するって縁がある。
脚本の元になったのは、実在の棋士呉清源。戦前、日本の棋士が中国で見つけた才能の持ち主を、日本に連れ帰って強い棋士に育てたけれど、日中戦争が始まって中国人であることを批判される。
桐山桂一『呉清源とその兄弟』、呉清源『中の精神』、『呉清源棋話―莫愁・呉清源棋談』、呉清源『以文会友』、江崎誠致『呉清源』ほか、多数の関連書籍を読みまくった私には、映画のどの部分が呉清源のエピソードのアレンジかすぐわかりました。
映画の内容は、上にあげた本に書かれた、文字通り血のにじむような実話を、中国風の荒唐無稽な流血ドラマ+中国革命メッセージと日本的な浪花節にアレンジの悪い部分ばかりの足し算になっていて、本当に「合作映画」の良くない見本でした。
30年以上前のことだから、仕方ないのかもしれない。それに、日中合作だから、中国政府の検閲を通るシナリオじゃないといけないし。でも、物語は細部に宿るから。そして、芸術作品って時代を超えるものだと思う。ディテールにこだわりのない、エピソードだけ実話から借用し継ぎ接ぎした、借り物の物語でつくった映画を見るのは悲しい。
もちろん、1972年の日中国交正常化から、わずか10年という時代に苦労して努力して合同してつくったこと事態がすばらしいといえなくもない。でも、それは映画制作側の満足。観客が映画に期待するのは内容で、看板じゃないから。
題名:未完の対局
監督: 佐藤 純彌、 段吉順
製作:日本・中国(1982年)123分
主演: 孫道臨、三國連太郎、三田佳子ほか