愛する気持ちを持ち続ける。『君のいた永遠』香港、1999年。
中国の友だちに、教えてもらった歌番組で聞いた「心動」という歌がすごく素敵でした。せつない歌詞とメロディが、せつせつと訴えてくるバラード。何度も聞いて、覚えてしまうくらい。同じタイトルの映画の音楽なのだそうです。
早速探してみましたが、なんと台湾の大ヒット映画『海角七号』に出てくる大大のお母さん役の女優さんが歌っていたんですね。彼女の名前は林暁培(シノ・リン)。驚きました。あまりに名曲なので、他にも何人かの中華圏の歌手がカバーしていますが、最初の歌を歌ったのはシノ・リンだそうです。
さて、ここまでくると金城武が主演だという『心動』の映画を見たくなりますが、アマプラにはなかったので、広東語の字幕で見ました。大陸の簡体字と違って日本の漢字に近い繁体字なので、助かりました。
映画『心動』は、1999年時点で、映画監督のシルビア・チャンが、自分の昔の経験をもとに、成就しなかったラブストーリーの脚本を練るという設定。過去と現在の物語が入れ替わり、立ち代わりで進んでいくので、広東語の字幕だけでは、慣れるのに少し時間がかかりました。
映画の舞台は、1970年代の香港。高校生の主人公小柔(ジジ・リョン 梁詠琪)が出会って好きになる林浩君(金城武)は浪人生。音楽をやっていて、勉強ははかどらない様子。2人はすごく惹かれ合うけれど、まだ小柔は高校生。一緒にいるところを引き離されて、別れさせられてしまいます。
いまだとちょっとここまで厳しい設定は考えられませんが、舞台は1970年代。今から50年前。小柔の家は、母一人子一人の設定なので、余計に厳しい。林浩君は両親健在。あと、チャラくはないけど、女性経験豊富っぽい設定。あんまりかっこいい設定じゃないのが意外です。
小柔の失恋をなぐさめたのが親友の陳莉(カレン・モク)ですが、なんと彼女、小柔を好きだと告白するんですね。これもまた驚き。小柔は彼と別れ、親友とも連絡をとらずに大人になります。
10年後くらいに、小柔と林浩君は東京で偶然再会します。林浩君は、元カノのその気があるような素振りを見せるのに、自分はどうしているとか全く言わないので、「結婚してる」ことが言外からわかります。ズルい男全開。その後、結婚していることを告げますが、そのまま連絡を取り続けます。
林浩君の奥さんは、なんと陳莉。なんで彼女が日本まで彼を追ってきて、結婚を迫ったのかよくわかりませんし、最終的に彼女は「好きなのは小柔だけだった」といって、林浩君に別れ話を切り出します。このあたり、ちょっと共感が難しいです。私の語学力の限界以上に時代の壁を感じます。
そして、なんだかふらふらしている、この映画の金城武の役柄の魅力がさらにわかりにくい。日本の恋愛ドラマは、ほぼ男性がちゃんとした仕事についていますが、香港は逆で女性の方が自立しているとか聞いたことがありますが、どうなんでしょうね。
お互い、好き会っていたけれど、でも結婚まで至らなかった恋愛って、昔はわりと当たり前にあったと思います。親の反対とか、たまたまお互い(もしくはどちらかに)に恋人がいて、タイミングがわるかったとか。仕事で転勤になったとか、実家を継がないといけないとか。今はあまりそういうの、聞かなくなりましたが。
シルビア・チャンの「若い頃の経験」という設定がどのくらい本当なのかよくわからないし、脚本をつくる過程で映画らしくストーリーを盛る必要もあっただろうし、そもそも「映画」ですし。そのあたり、よくわからずあいまいなまま、ラストの小柔はシルビア・チャンと歳をとった林浩君に重なります。凝った映画の構成ですね。
空港でのさりげない別れの挨拶に、なんでもないようなプレゼントに、何十年も付かず離れずの友人関係を続けてきた二人の切ない感じが凝縮されているような気がします。そこだけは、ちょっと素敵かも。
そして、肖戦が歌番組で「心動」を選んだ理由として、「自分が好きだから」以外に、それまでこの曲を歌った女性たちに比べて「那英の声(歌い方)が違う魅力があるから」(意訳)と言っていたのはさすが。確かに、シルヴィア・チャンがモデルなら、那英の歌の方が切ない恋だけど、それはそれとして振り切って自分の人生を生きていく感が出てて好きかも。