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デジタル監視は14億人を統制できるか?『中国「コロナ封じ」の虚実』高口康太


AIやIT方面に詳しい、定評あるフリーのジャーナリストさん。東大の伊藤亜星先生や、神戸大の梶谷懐先生とも共著を出されています。新書が出ると必ず購入する著者のお一人です。ただ、私自身が技術方面に詳しくないので、以前感想を書いたのは『現代中国経営者列伝』だけかな?

さて、今回の本もタイムリーな新刊です。オミクロン株の流行が始まる前、中国ではコロナウイルス対策が完璧で、水際対策できっちり封じ込められたと考えられていました。なぜ、中国でそんなにコロナ対策が成功したのかをいろんなメディアが書いていましたが、この本はそれらの記事のどこが正しくて、どこが間違っているかを教えてくれます。

まず、都会では人々がスマホアプリに健康データや予防接種状況を登録して、それがないとデパートや学校に入れないシステムをつくったのは事実だし、中国製ワクチンを強制的にガンガン打ったし、簡易病院をたくさんつくって対策したことは事実。農村ではドローンを飛ばして、スマホを持たない人たちを監視する映像もニュースで流れました。

でも、実際に人々を監視したのは、日本でいえば自治会会長みたいな「居民委員会」や「農村委員会」のたちで、共産党委員でもある彼らが動員されて、ボランティアで政府の通達をみんなに守らせたり、隔離されている人たちの面倒をみたりしたとのこと。

これは、もともと集団体制だった中国(や台湾)のなごりで、日本でも阪神淡路大震災以降、自治会の動きが注目されたように、中国(台湾)でもSARSの頃から、こういう政府を支援する組織が役立てられて、スマホやデータベースシステムとコラボして活躍したのだとか。つまり、ITだけでもダメだし、社会主義的な動員や人海戦術だけでもダメってことですね。

日本では、保健所からの患者のデータがFAXで送られてくるというのが話題になりましたが、この点中国は完全にデジタル化されて、現場の人たちの労力を減らす方向に動いているのが羨ましいです。

そして、コロナ対策だけでなく、満員の病院の待ち時間を減らすオンライン受診とか、チケットのダフ屋対策、犯罪防止など、今まで「不合理だけどしょうがない」中国の悪い部分が、デジタルのおかげで問題改善に活用されて、合理的になっているとのこと。だから、日本人からすると、全部政府に監視されているような居心地悪そうなデジタル化ですが、中国に住んでいる人からすれば、便利になってありがたいのだとか。

良い方向での情報統制があれば、世の中に蔓延するデマやヘイトも減らせて、人々が風評被害に踊らされることも少なくなります。でも、政府に都合の悪いデータも出なくなり、人々は真実を知らないままです。そして、何が「良い情報」なのかは時代によって、状況によって変わってしまいます。

中国のデジタル技術のすごさと、そうはいってもなかなかSFみたいにはならない現実と、インターネットやSNSが日々引き起こす問題を考えながら、この本を読み終えました。おすすめです。







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