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世界はシステムでつながっている、はずだったけれど。『ハロー・ワールド』藤井太洋

どういう経緯で評判を知ったのか、忘れてしまった頃に入手。読んで驚きました。書いてあることは現代のちょっと先なんですけど、読んでいるときの空気感が、パソコン通信からインターネットに広がっていった頃みたいだったから。私はアナログ人間だけれど、2000年頃?のインターネットの世界観がある気がします。

ちょっとの時間でもあったらネットに接続して(灰色電話探して、コードつないで)、見知らぬ人たちと疑問をチャットや会議室で議論したり、ホームページを作成するために、HTMLファイルを教わって、自分で書いて世界が広がっていくあの感じ。懐かしい。

そんな風にこの『ハロー・ワールド』読んでいたら、なんと著者の藤井さんと対談された方もそんな話題を出していました。

『ハロー・ワールド』はまさにそれを描いていますよね。僕は、ちょうど2000年代最初の頃の価値観の恩恵を受けてきた世代です。前の世代が築いてくれた功績を、なんとか次世代に繋げていかなきゃいけないという感じの空気は、インターネット上にはっきりあったような気がしています。例えば、先輩世代に教えてもらったことで引き上げてもらった分だけ、自分たちはソースコードをコミットしようとか、何か勉強会のイベントを開いて伝えていこうとかそういう流れは確かにあって、今回『ハロー・ワールド』を読んで、久しぶりにそうした感覚を感じられました。
作家・藤井太洋が『ハロー・ワールド』を書かなければいけなかった理由

この『ハロー・ワールド』は短編集なのですが、どの短編も素材がおもしろくて、長さもちょうどいいです。しかも、どの小説もそれぞれ著者の実体験に基づくようなので、事実は小説より奇なりなのに、シンプルに読み心地がいいです。

もとITエンジニアの藤井さんが書かれる専門的な世界は、私が知らないネット世界の裏側、つまり利便性あるサービスをサポートする「システム」に言及されているのが楽しくて、読んでいてわくわくします。私の知らないことがいっぱい書かれているのに、でも読んでいて楽しい。飛ばし読みしても楽しい。

アマゾンのクラウドサーバ貸しシステム、アマゾン・ウェブ・サービス――AWSならば、そんなサーバーを一分単位で借りることができる。IT系の開発者にとってAmazonは通信販売の会社ではない

私が最初に読んだ時に好きだったのは、「巨象の肩に乗って」と「恵みの雨が降る」。ある時点では自由の象徴だったインターネットが、国境を超えるだけじゃなくて、国境で遮断もできて、なおかつ中国みたいに検閲する国も出てくるようになる。。。

それでも、技術を持った人たちが集まって、よりマシなシステムを維持しようと、情報をやりとりする。自分にできるをやって、できないことはできないという。そういうテクニカルな小さな物語が、とても心地よいです。

少しづつIT系のことがわかってくると、今まで飛ばし読みしていた部分が理解できるようになったり、以前はイマイチぴんとこなかった「ハロー・ワールド」とか、「行き先は特異点」、「五色革命」なんかの話も理解できるようになったり。余白が多い小説だから、いろんな風に読めて楽しいのかも。

あんまり気にったので、ちょっとした時間でも、いつでも読めるように、電子書籍で購入。短編集なので、気持ちを落ち着けたかったり、なんとなく気分をのせたいときに、一部だけとか一章だけとか読んでいます。最近では、ツイッターの買収とその後のシステムトラブルをめぐるあれこれのニュースを読む中で、思い出したように読みました。

こんなにいつも手元に置いて、何度も読み返す小説は初めてかも。



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