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夕遊の言の葉

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言葉や外国語、海外生活に関する記事をまとめてみました。
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記事一覧

フランス人としてパリオリンピック開会式を分析してみた 🇫🇷

2024年パリ・オリンピックの開会式のスクショや画像を見て、「一体なにが起きてるのか」と思ったかもしれない。確かに他国の開会式を観ていると、なぜこの人が注目されているのか、なぜこの音楽が選ばれたのかを理解するのは難しい。フランス人として、この記事で説明したい。 残念ながら今回はフランスのメディアの動画は地域制限がかかっているため、記事には公開できないのでスクリーンショットしか載せられない。ご理解の程よろしくお願いいたします! ・開会式の始まりフランスで最も人気のあるコメデ

今年必読の1冊。『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』渡辺将人

今年は台湾の選挙イヤー。そのおかげか、昨年、一昨年と台湾関連の良書がたくさん出版されて、うれしい悲鳴の日々。読むのが追いつかなくて仕事を放棄したくなるくらい。でも、まさかそんな大豊作の中で、予想もしないような読み応えある本が出てくるとは。学問の可能性は、どこまでも果てしない。うれしい。 これまで日本で出版されてきた、どんな台湾の歴史の本とも、全く違う渡辺先生の本。アメリカで政治活動を実際にやったことがある、渡辺先生ならではの視点から台湾のデモクラシーについて書かれています。

新しい世界は闇から始まる。『闇の中国語入門』楊駿驍

「歌は世につれ、世は歌につれ」。それは歌だけでなく、言葉も同じ。新しい言葉ができたり、海外から入ってきたり。そして、それがその国独特の言葉に変化していきます。もともとネガティブな言葉が普通になって、さらにポジティブな意味も加わったり。言葉をめぐるおもしろさは、単純なコミュニケーションの道具というだけじゃなく、世の中の変化を定点観察できる部分にもあります。 楊先生の文章は、noteの記事をもとに書かれたそうですが、1冊の本として読むと、その構成力や深みのある洞察、なにより、1

スリリングでミステリーでおいしい小説は反則『炒飯狙撃手』張國立(玉田誠訳)

狙撃手(スナイパー)のイメージといえば、孤高。人付き合い苦手。無駄なことしない。無口。ストイック。百発百中の仕事人。なのに、本書のタイトルは「炒飯」+「狙撃手」。炒飯ですよ、チャーハン!!! この矛盾率高過ぎな言葉の並びだけで、中華好き&言語好きの10人中7.3人は本を手にとってしまうはず。 主人公の狙撃手「小艾(シャオアイ:艾礼)」は、組織の指示通り、ローマで東洋人のターゲットを射殺しました。あちこちにある防犯カメラを想定して、変装と移動を繰り返し、完璧な仕事をしたはずな

平安時代、最大の対外危機『刀伊の入寇』関幸彦

今年の大河ドラマは、私の好きな清少納言が出るというので、楽しみにしていました。見る時間はないけれど、SNSでいろんな感想やら解説があふれてくるのを見つつ、全体像を想像するのが毎週楽しいです。 平安知識があんまりないので、清少納言が使える中宮定子が、父親を亡くして、兄弟の藤原伊周と隆家がやらかしたせいで、どんどんつらい立場に立たされて、しかも叔父の藤原道長が権力者になって、彼の娘彰子が入内したから、悲しい最後を遂げた……くらいしか知りません。 もちろん、道長だって最初から権

中国国家レベルのプロジェクト「全球漢籍合璧工程(世界漢籍統合プロジェクト)」に協力した時のこと

 ナカシャクリエイテブが取り組んでいる文化財関連の業務は、文化財のデジタルアーカイブやレプリカ作成、アプリ・WEBサイトの開発、博物館展示支援など様々ですが、資料の整理や学術調査のサポートもおこなっています。  お客様としては日本国内の博物館や図書館、自治体様が多いのですが、実は海外のお客様とお仕事をさせていただくこともあるんです(海外に出張することもしばしば…)。そこで今後、NOTEでは海外との業務や海外の博物館事情などもご紹介していきます。  それは2018年のこと。

ファンタジーと歴史とSFと。ケン・リュウ『母の記憶に』古沢嘉通他訳

有名すぎるくらい有名なケン・リュウの小説。これまで、なかなか時間とタイミングがなかったですが、とうとう読めてよかったです。短編集なので、ビギナーにもやさしいですし、いろんな物語がまとめられているので、タイトルを確認しつつ、好きなから読めるのもいいです。 ケン・リュウは、中国出身の作家さんでアメリカに住んでいて、たくさんの作品を書いているうえに、英訳した『三体』を各方面に宣伝して世界的大ヒットにしただけじゃなくて、各地の作家さんの作品が国境を国境を超えて読まれ、メディア化され

奈良と鹿と初夏の散策。『空海―密教のルーツとマンダラ世界』奈良国立博物館

友だちと久しぶりの奈良デート。行先はもちろん奈良博。空海展ということで、混んでいることを予想。早起きして、開館前に到着するように待ち合わせ。奈良公園では、鹿たちがすでに、せんべい屋さんの前でスタンバイ。どちらも気合充分です。 さて、「空海」展ですが、すごくよかったです。ほとんど撮影不可だったので、詳しい内容を知りたい方は、公式サイトをどうぞ。平安時代(9世紀)の五智如来蔵とか、十二天像、不動明王坐像などなど、大きくて迫力ありました。 珍しくておもしろかったのは、インドネシ

南の島の生命力と詞の世界。『雨の島』呉明益(及川茜訳)

台湾の呉明益さんの小説は、日本語訳がいくつかあります。現実とフィクション、現在と過去が行き来する独特の文体と世界観で、私が好きなのは『自転車泥棒』。台湾原住民の言い伝えと、日本植民地時代の銀輪部隊の歴史、現代台湾の自転車王国状況が入り混じった、不思議な小説です。 『雨の島』は事前情報がなくて、時間があれば……という程度で読み始めたら止まらなくなりました。なんせ、台湾の自然描写がすごい。木や植物、動物の野性的な生命力と、その源泉の太陽の強さとまぶしさ、圧倒的な水分の多い筆力が

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。 さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源からたどります。日本が新しいもの=外来語を使って新しさや付加価値つけて表現し、そ

(ある時代の、ある身分の)女性の名前のこと

初対面の人とあえば、○○ですと互いに自分の名前から自己紹介をはじめる。そんなとき、僕は頭の中で、この人の名前をどう書くんだろうと自分のなかの音訓の知識を駆使してあてようと試みるが、これがなかなか難しい。 それは現代の人々の名前で用いられる漢字と、常用の漢字とでは訓が(ときには音も)かけ離れていることが往々にしてあるためである。 しかし、それはなにも今にはじまったことではなく、古来、日本において名前に用いられる漢字の読み方は尋常の読みとは異なっていたらしい。近世の考証随筆を見て

好みすぎる中国古代史ミステリー。『蘭亭序之謎』唐隠著、立原透耶監訳

中国の長い歴史の中でも、一番華やかな時代のイメージがある「唐」。7世紀から10世紀まで、日本でいえばざっくり奈良・平安時代です。このミステリーの舞台は、めちゃくちゃ栄えていた唐が、楊貴妃を愛したことで有名な玄宗皇帝の時代に起きた安史の乱の後、だんだん力が弱まって、帝国としてのまとまりが崩れていく時代です。 そして、この本の謎の中心になる「蘭亭序」は、有名な書聖・王羲之の作品。王羲之は4世紀前半の人なので、日本でいうと大和朝廷の頃。前方後円墳が作られていた時代です。王羲之の死

あまりにも台湾的な探偵物語。『台北プライベートアイ』紀蔚然(船山むつみ訳)

最近は、評判のいい中国語の本がガンガン翻訳されて、読むのが追いつかない、嬉しい悲鳴の日々です。こちらの本も、もうタイトルだけでも、絶対おもしろそう。そこに、『辮髪のシャーロック・ホームズ』を翻訳した船山むつみさんの名前が加われば完璧です。今回読んだ『台北プライベートアイ』は、日本語で翻訳されるより先に、フランス、トルコ、イタリア、韓国、タイ、中国(簡体字)で翻訳されている作品だとか。 『台北プライベートアイ』は、原作が『私家偵探』という台湾のミステリー小説。台湾の輔仁大学と

ことりっぷな外国語チャレンジ。『ことばの白地図を歩く』奈倉友里

この本は、迷っている人におすすめです。例えば、大学には行きたいけど、何を勉強したらいいのかわからない人。大学には入ったけど、自分のやりたいことが見つからない人。そして、大学は卒業したけど、何かまた別のことを勉強して自分の方向性を変えてみたい人、などなど。 今井先生の『英語独習法』とは真逆ですが、勉強っていうのは目的が明確な場合と、そうでない場合があります。目的がはっきりしていれば、回り道をするのはアホらしい。でも、目的がゆるっとふわっとしていたら、ゆるふわなりにスタートしな