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コピーで選ぶ2023年の企業CM ベスト3

株式会社エクシングのクリエイティブ・ディレクター、野村です。

ここ数年、はんぶん勉強|はんぶん趣味で、毎週末にYouTubeで新着CMをできるだけ多く見て回り、手元に記録を残しています。そこで今回は、2023年に見た数百本から、特にコピー・言葉に着目して個人的に選んだ企業CMを順不同で3本、制作に携わった方々への敬意を込めてご紹介します。


コピーで新しい角度から光を当てる

●Sansan 2023 企業ブランドCM「新しい景色へ」篇 (1:00)  
公開:2023年8月24日

ある事象にこれまでと異なる角度から光を当てて、新しいものの見方を示す。言われてみれば確かにそうだ、と思わせる。そんなコピーのお手本のようなCMです。

僕もアンケートなどで属性を答えるとき、つまらない自尊心から 「6.専門職」「7.その他( )」などを選びたくなることがありますが、実際は「1.会社員」のひとりです。このCMは、どことなく平凡でつまらなそうなイメージも伴う「会社員」に光を当てて本来あるべき姿を描き出し、自社のサービス紹介へつなげています。

社会人と呼ばれる人の
ほとんどは、つまり
「会社員」だ。

ところで、このコピーは【社会人のほとんどは、つまり「会社員」だ。】でも成立する気がしませんか? 一般にコピーは短いほうがいいとされますから。

ここでは【と呼ばれる人】を挟むことによって、社会人という言葉の定義から話者が距離を置いています。”社会人のほとんどは会社員だ”と言い切られたら、自営業やフリーランスの方は「この会社には私たちが見えていないのか」と訝しく思うかもしれない。いやそこは、たとえばニュースで新社会人と聞いたら普通は会社員をイメージしますよね…といったような、「私たちではなく世間が言うところの」というクッションを効かせる意味があるのかもしれません。

CMの後半は、ともすれば「一人ひとりがみんな大切」という退屈な正論になりそうなところを、多様な人物の視点に切り替えながらシャープに伝えます。「ボクの代わりなんていくらでも…」にかぶせる「いないよ」は特に印象的です。元気が出ますね! 会社員の方、そして会社員でない方も、みんなでがんばりましょう。


呼称で関係性を瞬時に伝える

●JRA 「今日、わたしの物語が走ります。」(2:23)
公開:2023年4月8日

競走馬の育成に関わる人々の想いを描いたアニメーションCM。前半に登場する4人のセリフは、いずれも「今日、あの◯◯◯が走ります。」ではじまります。

「今日、あの泣き虫が走ります。」
「今日、あのやんちゃが走ります。」
「今日、あの人見知りが走ります。」
「今日、あの頑固者が走ります。」

このCMでおそらく最も難しいのは、この4人が何者で、彼らと競走馬がどれほど長く深く交流してきたかをごく短時間で直感的に視聴者へ伝える必要があることではないでしょうか。それが届かないことには共感も生まれません。

その点で、この◯◯◯にあたる呼び方がいずれも軽くネガティブ寄りな言葉になっているのが効果的です。ああ、手がかかる馬に時間をかけて根気よく向き合ってきたんだなあ…というイメージがふくらみますよね。「あの天才が」「あの優等生が」ではこうはいかない。かといって「あのろくでなしが」「あの怠け者が」までいくと人間性を疑われます。

しばしばお母さんが自分の子を指して他人にそう言うように、こういう軽いネガティブワードは、むしろ揺るぎない親密な関係性の裏返しであるという機微をうがったコピーです。競馬には縁のない人生でしたが、ぐっと興味が湧いてきました。



独特な表現でカスタマーとの絆を紡ぐ

● Volkswagen ブランドムービー「It’s not a Volkswagen until…」 (1:30)
公開:2023年7月20日

「このクルマは完成しましたが、まだフォルクスワーゲンではありません」という意味ありげなメッセージで始まるCMです。90秒を貫く「あなたが◯◯するまで、それはまだフォルクスワーゲンじゃない(It’s not a Volkswagen until…)」という言い方・考え方は、なんというか、とても英語的な発想のアプローチだと僕は感じます。日本人…いや、少なくとも自分からは出てこない美しい表現です。

じゃあ何をしたらフォルクスワーゲンになるのか? それがこのCMで描かれているわけですが、なるほど、悲喜こもごもの人生をともに過ごしてこそ…というわけですね。深い…。かつてシートにアイスクリームをべったりこぼすシーンがクルマのCMに使われたことがあったでしょうか。

私たちの会社でも同じようなローカライズの仕事があり、英語独特の気が効いたフレーズをどう日本語にするか悩むことがあります。このCMは英語版に忠実ながらナレーションに違和感がありません。そのうえで最後のシーンだけ、英語版の “until there are people in it” をシンプルに「あなたが乗るまでは」としているのも素敵です。全再生回数の3%くらいは自分じゃないかと思うほど繰り返し見てしまいました。


最後に番外編をひとつ。


●YKK AP 窓と猫の物語 「いつもの場所」篇(1:00)
公開:2023年11月27日

とても好きです。心が温まります。なぜ番外編かというと、最後のタグライン&社名のほかにコピーが一切ないからです…。猫のかわいさはもちろん、男の子がとてもいい味を出していますよね。ときには言葉がないほうが雄弁であると教えてくれます。メイキング動画も楽しいですよ。


以上です。ありがとうございました!


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