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旨い「うなぎ」はどこに行った!

外国人旅行者にとっても「うなぎ」は大好物!

日本人で「うなぎ」が好きな人は多い。たぶん嫌いな人もいるにはいると思うが、多分圧倒的に好きな人が多いと思う。私が中学生の頃までは、「うなぎ」は確かに贅沢な食べ物ではあったが、よほど豊かでなければ食えないというほどには高価ではない。たまにではあるが、わが家の夕餉(ゆうげ)の食卓にも「うなぎ」が上ることがあった。多くの人が美味しいと言うのだから、よほど旨味成分の絶対量が豊富なのだろうと思う。たぶんその中には、特に日本人が好むアミノ酸が豊富に含まれているのだろうと思っていたが、どうも好きなのは日本人だけではないようだ。最近では日本に来る外国人の中に「うなぎ」の旨さに気付き始めた人がたくさんいて、ある程度価格が高いことも知ったうえで、堂々と日本で食べたい「日本料理」の上位にランクしている。
しかし考えてみれば、「寿司」「すき焼き」「ラーメン」「カレーライス」「しゃぶしゃぶ」「とんかつ」「天婦羅」「かつ丼」「うどん・蕎麦」といった日本食の人気のメニューも、もともとは必ずしも外国人が好む食べ物ではなかったはずだ。おそらく食べる機会が増えたことで、美味しさに気付く人が増えて、やがて熱狂的なファンが出てきたのもここ一〇年くらいの現象だと思う。

国際的な日本食ブームの中で

気に入った料理だから秘密にしておきたい複雑な心理

世界中に「日本料理」の愛好者が増えているというニュースを聞くと、自然とうれしくなるのが日本人の性質(たち)だが、最近では手放しで喜べない気分になる。例えば「うなぎ」の人気はそれこそ「うなぎ上り」なのだが、単純に喜んでばかりではすまない。少し古い話にはなるが、もともと日本人が好んで食べていた安くて旨い大衆魚の「秋刀魚(さんま)」は、二、三〇年前までは、日本人以外には見向きもされなかった。ところが「日本料理」が世界的に普及する過程で、「秋刀魚」の旨さに気付いた台湾、中国、韓国などアジアの人々が注目するようになって、太平洋の各地の漁場で日本、台湾、中国、韓国が「秋刀魚」の争奪戦を繰り広げることになった。その争奪戦で、どうやら日本が後れを取っているという。「秋刀魚」だけではなく、かなり昔からの「うなぎ」の幼魚、鯖(さば)、鮪(まぐろ)などを皮切りに、あらゆる水産資源が減少し始めて、やはり日本人のたんぱ資源を支えてきた魚の争奪戦が激化している。
さらに加えて、「うなぎ」のように歴史的に日本人が好んで食べてきた水産資源までが、世界の人々に知られるようになって、結果的に「うなぎ」の需要が増えて価格が高騰し、私たちの口には入りにくくなっている。そう考えると、外国人の間で何か日本古来の食品が人気を呼んでいるとすると、それはいつの日か日本人の食卓にも上らなくなることを予告していることになる。

「かつお節」は、今や外国製も珍しくない

日本にでしか手に入らない特産品、つまり、「わさび」などは国際的に人気が出ても、日本から輸入しなくてはならないし、増産しようすればある程度は可能なので、これは日本人として歓迎できる。しかし海外の国もなかなか抜け目がなくて、たとえば日本料理が「世界遺産」になり、世界の人々に愛好されるようになった。そこで日本料理に欠かせない「かつお節」が世界中に輸出できるようになったと期待された。ところが、「かつお節」は生産の過程である黴(かび)の働きを借りなければならないのだが、これがいくつかの国では「発がん性」があるとかで輸入禁止になっている。そこでこの生産方法を若干アレンジして、日本人の好みの微妙な「出し」は出ないが、顆粒状のだしの素には十分使えるという事で、最近では「かつお節」の顆粒や原料は、世界の各国でも生産されているという。つまりは本家本元の日本の「かつお節」の輸出には大きなハードルがある。日本の料理が世界中で好まれるのは喜ばしいことだが、それに使われている日本の特産品が海外に売れない事になると、これは日本人が好きな魚などが他の国に漁獲されて、日本人の口に入らなくなるのと合わせて、とても悲しいことだと思う。日本のこれが美味しいと、胸を張って他の国の人に勧めてあげたいが、よっぽど好きなものについては、これから少し私の口も重くなる可能性がある。


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