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 大きな熊が来る前に、おやすみ。 著:島本理生

 大きな熊が来る前に、おやすみ。は哲平と珠実の同棲生活を描いたものだ。何一つ問題無いように見えた二人だがアイドルをテレビで見てて歯がどうこうと意見が分かれて、かわいい、かわいくないと口論になって珠実がクッションを投げた。すると哲平は暴力を振るって来た。すぐに謝って来たがクッションを投げただけだったのにと、その変貌ぶりに驚いていた。

 公園でボートに乗ってデートするシーンは印象的だ。百人一首を言い合って、哲平が一番好きな句を言い当てられない珠実。すごく普通で穏やかで理想的なカップルに見える。大きな熊が来る前に、おやすみ。とは珠実の故郷の北海道で、ちゃんと寝ないと熊が来て食べられてしまうと、父親が言って聞かせた文言だった。その地方でしか言われないような言葉だったのかもしれない。

 のちに、珠実の妊娠がわかって二人は本音で会話しなきゃいけなくなる。珠実は途方に暮れたが、あの時、身体でお腹を守っていなければこの子は堕してしまっていたのかもしれないと二人の間には大きな溝がよこたわる。子供が好きな哲平は弟を亡くしていた過去を持つ。障害のある子供だった。珠実の父との回想シーンを織り交ぜて、二人はこのままゴールインするのだろうか?と肯定も否定もしないラストだった。

 他にクロコダイルの午睡と猫と君のとなりと言う二篇が封入されている。クロコダイルの午睡は裕福で無頓着に他人を傷つける言動をしてしまう都築新が霧島さんと言う主人公の料理に惚れた話。バイトもした事ない都築新は他の女子高生と付き合っている。この新の言動に翻弄され、霧島さんはオシャレも無理してしてしまう。水族館にシロワニを見に行ったがそれは新が見たいワニではなくてサメの仲間だった。新は小さい頃に見に行ったワニ園のワニが好きでできたら来世はこんなふうにだらだら気持ちよく食べるだけで寝ていたいと思っていた。嫌な奴として描かれていた都築新だったが次第に距離が縮まって来る。霧島さんの料理目当てによく食べに来るようになったからだ。蕎麦アレルギーだった都築新に、言われて癪に触った霧島さんは、蕎麦茶を出して、新は入院した。別れ際の二人はドラマチックだった。

 猫と君のとなりは志麻先輩と荻原君のお話。バスケ部のコーチの訃報で集まった学生たちの中で志麻先輩が好きだった荻原は冒頭一気に告白をしてる。志麻先輩は来年から社会人だが荻原は獣医学部なので6年の大学生活だ。連絡先も交換しなかった二人だが、傘を返しに来て、それから二人は頻繁に連絡を取るようになる。荻原は志麻先輩の事をよく覚えていて、志麻先輩は荻原の事を忘れてる。志麻先輩が女性で荻原が男性だ。志麻先輩が小さな猫に牛乳をやるのに、冷たかったら駄目だからと人肌で温めて指先から猫に与えていた姿を荻原は忘れられないのだ。荻原は親が獣医だから自分もとその進路を取ったが、飼い主には愛情があるようで無い人も多いと嘆いていた。自分は獣医になるならこう言う医者になりたいんだと言った荻原に、志麻先輩も好きだよと返して終わる。一番この話が平和で素敵だった。

 あとがきには島本理生さんも短編を書いてみたかったのだと言う言葉が付されていた。短編が多かった山本文緒さんとは違って、島本理生さんは長編や中編が多い。あと一冊で島本理生さんの本は全部読破する事になる。長いようで短かった。読んだらTwitterで声かけてみよう。

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