クローバー 著:島本理生
大学生の双子の兄弟、姉の華子と弟の冬冶。冬冶は理系の大学に通っている。恋愛体質で抜け目なく自分を演出する華子の恋愛と恋愛に臆病になっていた冬冶の恋愛。前半が華子で後半が冬冶だ。
華子の恋愛はいつしか熊野と言う公務員に一目惚れされて押しに押されて行く。冬冶の方は雪村さんと言う冴えない女の子が華子の手によって見違えるくらい綺麗になって告白されて付き合うと言うものだ。
冬冶の方は大学院に行くか他大学の院に行くかで迷った挙句、雪村さんの事を考えて就職すると言う形で終わりを迎えるのだが、その葛藤と雪村さんとのやりとりが強烈だった。解説の辻村深月さんの言葉を借りればモラトリアムな大学生特有の悩みを見事に捉えている。
恋愛模様や言葉のやりとりだけでも十分面白いのだが、誰にでもあった大切な青春の季節を思い出させてくれる瑞々しい作品だった。
2007年10月に文庫化した角川の古本をAmazonで手に入れて読んだ私だが、1箇所だけ詰まった誤字脱字を見つけたような気がする。何ページだかもう覚えてないし、その為だけに2回読むと言う事も無いのだがどんな作家さんでも全部読んで行くと多少そういう事実にも直面する。山本文緒さんでも同じような事があったなと思った。
作品全体に悲壮感は無く、明るい物語だった。これは島本理生さんの作品の中では珍しい事だ。大学生の恋愛群像活劇として十分楽しませてもらったし、若い頃の自分を少し思い出したりもした。
今回は書評がうまく書けない。解説を辻村深月さんがしていて、全部作品をうまくまとめているものを読んでしまったのであらすじやネタバレになってしまったかもしれない。読み終わるのに三日かかった。章立てしてあるが短編集じゃない。一続きの物語だ。275ページ。ライトな分量なのにそれ以上に読後の余韻に浸っている。それ以上に長い物語を読んだような気がするのは濃密な世界だったからだろうと思っている。