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SS 未来の幸せ【#にゃんとなく】#青ブラ文学部参加作品(628文字)
「白や白」
うすぎぬの女人は奴婢で、神に仕えるために育てられている。逃げ出さないように薄い絹の衣しか着ていない。
のっそりと太った白い猫が顔出すとにゃーんと濁った声で鳴いて女人のヒザへよじのぼる。そっと板戸の外から声をかけられた。
「神奴婢様、そろそろです」
「はい」
白猫の背中をさすりながらつぶやく。
「もうお別れね」
「にゃん」
「元気でね」
「にゃん」
子供の頃から一緒に育った猫はもう年老いて体も重そうだ。これからは一匹で生きなければいけない。
「あなたに、なにかをあげられたら……」
彼女は奴婢なので何ももてない。猫は突然つぶやいた。
「なら魂をくれ」
「……あげるわよ」
それきり猫は何も言わない。
彼女は猫を置いて、川岸に掘られた穴に入る。中で座ると川砂利が落ちてきた。生き埋めで龍神のお供えにされる。埋めたら石灯籠を立てて、それがずらりと川岸に並んでいる。
(白、さよなら)
もう泣かない、家族も居ない、愛する人も居ない。ただ猫の事だけ心配する。
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「起きなさい」
「あと1分」
ぐいぐいと体をゆすられると母が遅刻だと怒っている。朝の食卓には、父と母、生意気だけどかわいい弟が座っていた。
「早く食べて」
「休日は旅行だぞ」
「温泉入りたい」
白髪の祖母が食卓に座るとみんなで朝ご飯。幸せな一日の始まり、いつ彼氏が出来た事を父母に言うか悩んでいる。
「しあわせかい」
「うん、でもなんで?」
祖母がにっこりと笑う。
「にゃんとなくね」