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【読書の記録】『マイノリティの「つながらない権利」』雁屋 優 著

本棚の課題図書を1冊読み終えた記録。

『マイノリティの「つながらない権利」 ひとりでも生存できる社会のために』
https://www.akashi.co.jp/book/b657015.html

ライター道場3期生の雁屋さんの初めての単著とのことで、楽しみにしてました。以下、内容紹介も兼ねた感想文です。よろしくどうぞ。

「つながらない権利」とは? 複合的マイノリティの視線


タイトルの「つながらない権利」という言葉に最初はとても引っかかっていた。人と人とのつながりなしに生きるなんて可能なんだろうか?この社会は人のつながりの中で成立しているのではないか?

ただ、本書が訴えるのは「誰ともつながらない」などという極端なことではない。困難を抱えた人が当事者コミュニティなしで情報を獲得しづらい、そんな現状の問題点を鋭く指摘していて、なるほどと唸った。

第1章ではアルビノの当事者であり、ASDや性的マイノリティでもある著者自身の体験から、問題意識が提示される。情報が氾濫するこの社会において、特定のコミュニティに所属せずとも欲しい情報を得ることは比較的容易だ。ただし、それはマジョリティとして自覚なく社会のあらゆる利益を享受できる者の話。マイノリティが本当に欲しい情報、例えば進学、就職、あるいはもっと身近な日々の生活に必要なことを知るための選択肢はものすごく少ないのだと改めて気づかされる。

困難な状況を共有できる当事者コミュニティがあるなら、ある程度の受け皿になるのでは?と考えるのは早計で、例えば著者のように複数のマイノリティ性を抱える人にとって、当事者コミュニティはかならずしも安心できる場所にはならない。発達特性によって人と話すのが苦手な人、集団に恐怖心がある人、あるいはコミュニティ内で新たな偏見にさらされる恐れがある人もいる。たしかにそんな状況であれば、足を運ぶのは心理的ハードルが高いだろうなと想像がつく。というか、今までそんな状況を考えたことがなかった自分にちょっと愕然としてしまう。著者はコミュニティが成立した歴史を紐解いてその存在意義を認めつつ、そこにしか目指すものがない現状を憂えている。

第2章の対話編では、3人の有識者へのインタビューによって論点が整理され、著者自身が捉われていた「能力主義」にも言及される。第1章を読みながら疑問に思ったことや違和感を覚えた点は、2章でかなり解消された。第1章で著者はコミュニティで出会った人によって「マイノリティ性が剥がされる」と感じたというエピソードを披露するのだが、私には今ひとつ感覚がつかめなかった。「できないと思ってたことが実は工夫によってできるようになる」ってとても嬉しいことじゃない?なんで辛かったの?と不思議だったのだが、インタビューの過程で「能力主義」という言葉で解釈し直されたことで、それが社会構造によって「思わされていた」ことが明らかになっていく。個人は社会につながり、社会は個人の生き方に影響する。社会学を学んでいた人なら膝を打つ内容なのではないだろうか。私自身はもうちょっとちゃんと勉強したほうがいいなと反省したところでもあるのだけど…。本書には著者が社会学やマイノリティを学んだ書籍の案内もあるので、ぜひ参考にしたい。

インタビューによって著者の思考が開かれ、第3章の解決篇へとつながっていく。この章では、マイノリティのステークホルダーや関係人口を増やして「閉じるために開かれた状態」をつくることや、オンラインの活用、テクノロジーとの距離感をうまく掴むことなどが提案される。

問題意識を発信し、有識者と共に見識を深め、これからの道筋を提示する本書の流れはスリリングですらある。マジョリティと呼ばれる側がマイノリティを理解する手がかりにもなる良書だった。

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