先崎彰容『本居宣長』について
先崎彰容『本居宣長』(新潮選書)を読んだ。ネット上では好意的な反応が目につくが、問題の多い本だと思った。この本から本居宣長に入ると、偏った理解を持つことになりかねない。とりあえず第1章について気づいた問題を指摘し、注意を喚起しておきたい。
第1章では、若き宣長の自己形成が、「家」との葛藤をくぐりぬけた先の自己発見のプロセスとして論じられている。宣長の生まれた小津家は裕福な商人の家だった。しかし和歌や学問に心を寄せる宣長は商売にはうとく、母の提案により医者となることを決め