サボテンの王国を再訪してみて。(よしもとばなな、王国を読んで)
夕方風が吹いている高台に昇って、なんとなく漂ってくる 肥 の匂いをかいで、はるかに続くまるで異星の砂漠みたいな実に変わった乾いた景色がピンクに染まるのを見ていると、 全てが思い込みだとやっとわかってくるのです。私はどこにいても同じだし、だからどこにも行けない、そしてさらに同じ理由でどこにでも行けるとも言えるというのが真実だと。
よしもとばななの作品に、王国シリーズがある。
おばあちゃんと山で、2人で暮らしていた、雫石という少女の物語だ。
雫石とおばあちゃんは、開発工事で住めなくなった山を出てゆき、おばあちゃんはマルタへ、雫石は街で暮らし始める。
街の中では、山の生活との差に驚きつつも、新しい人との出会いで、新しい生活を始めてゆく。そんな話だ。
初めてこの本話や読んだのは、ちょうど10年くらい前で、大学生の時だった。
不思議な世界観がある物語で、徹夜して3巻読み終えた記憶がある。そして、第4巻がその後に新刊として出たときには、この上なく嬉しくなったのも忘れられない思い出だ。
Kindleの本を整理していたら、王国の表紙が出てきて、思わず読みはじめた。
忘れてしまった箇所もあったけれど、だいたいのことは覚えていて、愛すべき登場人物たちに久しぶりに会えた気がした。
普段当たり前のように生きている自然や、当たり前のようにやってくる食材たちは、実はおっきな循環の中で、目の前に来てくれている。
王国の中で描かれる、自然や人のぬくもりは、心の中をあったかくしてくれる。いつものありふれた景色に、色がつけられる気がする。
冒頭に挙げた言葉は、この物語の中で、好きなフレーズだ。
私はどこにいても同じだし、だからどこにも行けない、そしてさらに同じ理由でどこにでも行けるとも言えるというのが真実だと。
とどのつまりは、自分の肩にかかっているということ。
どんな風に日々生きるのか。
どんなふうに日々を過ごすのか。
どんな気持ちでいるのか。
ぜんぶぜんぶ、実はじぶんの考えから起こっていることなのかもしれない。